玄関前。私の見つめた先にはカレンダーがあり、その十月三十一日には大きく赤いマジックで丸が書かれていた。
十月三十一日。ハロウィンという面白おかしいイベントがある日である。
なぜお菓子をねだったり仮装をするだけのイベントにそこまで熱心に考えているかといえば、もちろんのこと好きな人との距離を縮めたいからだ。

同じクラスの犬夜叉とは小さい頃から家が近くて仲良しなだけの、いわゆる幼馴染みだった。
無邪気に笑いあっていた子どもの頃を思い出すと頬が緩みそうになるが、今はそんなふうに思い出にふけっている場合ではない。
幼馴染みから進展しない関係を、なんとかハロウィンに進めたいのだ。
ハロウィンまであと少し。私は先ほど言ったとおり、好きな犬夜叉との関係を少しでも縮めようと頑張ろうと思う。

ちなみに、好きというのはラブのほうだ。



―――


小鳥のさえずりが耳に届き、今日も朝が来たんだなー何よりだーなんて間抜けなことを考えた瞬間、インターホンが家中に響き渡った。
こんな朝からインターホンを鳴らすのはあいつしかいない。
私は先ほどまで頑張って寝ぐせを直していた手をとめて、玄関まで小走りで向かった。
確認をせずとも分かっている。相手が、誰かなんて。



「おっはよー」

「……なまえ。だから、ちゃんと確認してからドアは開けろっていつも言ってんだろーが」



朝に私を訪ねてくるなんて犬夜叉しかいない。
犬夜叉としてはお願いだから確認しろとか言ってるけど、まあまあいいじゃないか。気にしないでほしい。



「もう少しで準備終わるからちょっと待ってて」

「おう」



学校へは犬夜叉と一緒に行くと昔から決まっていて、私を迎えにきてくれる犬夜叉には本当に感謝している。
これも私だけの特権だと思うと嬉しくてたまらないが、悟られないように準備をおわしてしまおう。寝ぐせは諦めた。少しくらいはねててもおしゃれだと思おう。

教科書などが入った鞄を持ち、ハンカチを持って火元の確認をして……うん、これで大丈夫だ。



「犬夜叉、行こうか」



笑顔で玄関にいる犬夜叉の元へ向かえば、犬夜叉はそばにあったカレンダーを見つめているのに気付く。
犬夜叉と呼べばはっとしたように此方へ顔を向けた。



「何かあった?」

「いや、三十一日に赤丸つけてあっから気になって」

「あ」



しまった、と思う。でも落ちつけ私。赤丸がつけてあるだけじゃないか。
犬夜叉に距離を縮めようと企んでいることがばれるわけがない。
落ちつけ落ちつけ。何度も心で呟いて口を開いた。



「ほ、ほら。その日ハロウィンじゃない?だからだよ。イベントだし!一応丸つけたの」

「あーハロウィンか。そういやこの間かごめがそんなこと言ってたな」



かごめちゃんというのは中学校に入ってからの大親友だ。今までずっと同じクラスというのもあり、仲良くさせてもらっている。
犬夜叉は基本イベントとかどうでもいいやーくらいの思考なので成功するか心配だったが、かごめちゃんに前もって話しておいたため問題はなくなった。
既に手をまわしていたらしい。だからかごめちゃん大好き。



「食い物持ってないとイタズラなんだろ?」

「うん。お菓子だけどね」

「じゃあ三十一日はお菓子持っててやるよ」

「……え?」

「その日は食い物に困らなさそうだな!」



そ、それって、つまり……。
ああもう……。幸せすぎておかしくなっちゃうよ。

どうやら当日はイタズラが出来ないらしい。
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