ようやく三日がたち、言った通りかごめが帰ってきたというのが匂いで分かった。
ことはも遅れて気付くと上機嫌に迎えにいこうと言い出す。いつもの台詞である。

俺たちが井戸につけばでかい荷物を背中に背負ったかごめがいた。



「かごめちゃーん!」

「? あっ、わざわざ迎えにきてくれたんだ!ありがとう」

「いえいえどういたしまして!」

「やっと来たかー、かごめ」

「ちゃんと三日で帰ってきたんだからいいでしょー。なんとか赤点も回避できたし、これでまた暫くは大丈夫なはず……うん、はず……」

「あかてん……? 赤い点々?」




かごめはうんうんと唸っていたが、開き直ったのかまあいっかと声を上げた。お気楽な奴だ。

鬼と人間の間から生まれたことははいわゆる力持ちというやつで、かごめの馬鹿でかい荷物を持とうしていた。
ったく……。すぐさま勢いをつけて奪い、代わりに持ってやった。



「あ……! 別にいいのに。持ちたくて持とうとしてるんだし」

「……こういうのは俺にやらせておけばいいんだよ」

「ふふ。やらせてあげて、ことはちゃん」

「え? ……うん」



いくらことはにとって軽い荷物でも、持たせるわけにはいかねえだろ。

態度が態度だが、少しでも男として意識してくれてたらいいんだけどな。
そんなことを思い、楓ばばあのところへと足を進めた。



―――


「妖怪が村を度々襲ってくる、ですか?」

「へぇ……。それで村の者皆困り果ててるだよ」

「何でこんな何もない村なんか……」



あれからまた奈落を追い続けること早数日。
手掛かりは見つからず時間だけが過ぎてく一方で、今日はもう宿を探そうと決めたところでたまたま通りかかった村。
そこら辺から妖怪の血の悪臭だけが鼻を伝い何事だと村人から話を聞いたところ、10日前ほどから毎日のように妖怪が人間を襲いにくるらしい。

だがおかしい。話の通りなら襲われて血を流すのは人間のはずだ。なのに鼻にくるのは妖怪の血の悪臭だけ。
弥勒も同じことを思ったのか村人に問えば、それは……と口を開いたところで、風が吹く。



「客人ですか?」



同時に、一人の男が笑顔で佇んでいた。



―――


男は、本来の目的(宿を探していたこと)を伝えれば、俺たちを少し離れた宿へと足を運んだ。
今日はここで寝泊まりをしてもいいということだろう。



「ここは私の結界が施されてる故、滅多なことがない限り妖怪に見つかることはありません。妖怪のことならご心配せずとも大丈夫ですよ」



どうやらこの男があの村を守っているらしく、妖怪が来ないか見張るためにここを離れるが食いもんは持ってくるというとどっかに行ってしまった。
心なしか去り際にことはを見ていたような気がして気分が悪くなる。

……けっ。



「よかったわねー、これで今日は野宿じゃないしっ」

「親切な方でしたしね」

「弥勒のことじゃ。どうせおなごがいないことに残念がっているのではないか?」

「……何を言う七宝」

「法師さま、今の間は何?」

「落ちつきなさい珊瑚……」



いつもの光景を眺めていれば、いつもはかごめ達と笑いながら話していることはの元気がないことに気付いた。
元気がない、というよりは何か……怯えているような。
確信はないけれど、正直に心配の気持ちもあった俺はことはと呼んだ。途端に肩がはね、ばっと俺へと顔を向ける。
その反応に驚き後ろへ後ずさりたくなったのは気のせいだ。びびってねえ。



「……あ、犬夜叉か。びっくりした」

「何言ってやがる。お前に話しかけてくるやつなんざ俺たちくれえだろーが」

「う、うん。そうだよね」



心ここにあらずという感じであははと苦笑したことはに疑問を抱き、何かあったのか?と問う。
ことははそれに対し少し悩んだ素振りを見せたあとに、



「私もうまく言えないんだけど……あの村、なんか嫌なの……。ううん、正確には――あの男の人」



言いづらそうに眉を八の字にしながら呟いた。
暫し沈黙が走り、何か言おうと口を開けるが弥勒の声でそれは叶わなかった。
目線を一度そちらへ移せば真剣な顔をして言葉を発している。



「しかし、気になりますな。村に襲撃を繰り返しているという妖怪ども……」

「もしかして奈落が関係してるんじゃないかな」

「四魂のかけらの気配はないけど、そうなら見逃せないわよね。そうだったらの話だけど」

「……ああ」



俺は返事をしたあと、再度ことはを見た。
浮かない顔で先ほど男が出ていった方をじっと見つめている。

分からない。お前が一体、何に怯えているのかが。
もし言葉に出来るなら、一番に俺に相談してほしいのに。


――私もうまく言えないんだけど……あの村、なんか嫌なの……。ううん、正確には――あの男の人


ことはの言った言葉が頭の中で響く。薄々、感づいてはいた。あの男の……胡散臭い笑顔で"ただの人間じゃない"ことくらいは。
何者かどうかまでは匂いは人間だから判断できないが、何にしても仲間に害が及んだならば、遠慮なくそいつをたたっ切るだけだ。

鉄砕牙の鞘を握りしめ誓った。絶対守ってやる。



お前は何を伝えたいだろう

 


prev next

bkm
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -