俺が笑えば笑ってくれる。俺が落ち込めば慰めてくれる。俺が間違えば正してくれる。
お前は俺に、たくさんくれた。否、今もたくさんのものをもらっている。
俺はかごめが言うに不器用だから、お前が悲しんでいるのに早く気付けなかったり、つい思ってもないことを言ったりしてしまうけど、それでもお前は俺に優しく言う。
大好き、と。
同じ"半妖"だからだとか俺たちにとって関係ない。
俺はあいつが大事で。あいつも俺が大事で。たったそれだけのことが、俺にとって何より大切であり――幸せなのだ。
あいつ……ことはのことを、俺は相当愛してしまったらしい。
「あ、木の実だ! あれって食べられるかな!?」
その声にはっとし、声のした方へ体ごと向ければかごめと珊瑚と共に食べられるものを探していることはが目に入った。
今日は生憎の野宿だ。俺はどうってことはないが、布団がいいなとかごめがぼやいていた気がする。分からねえ。
「んー、どうなんだろう。匂いは普通……よね」
「木に生ってたし、とりあえずは大丈夫なんじゃないかな」
「私も大丈夫な気がするから食べても平気だよ!お腹すいちゃった」
「じゃあこの木の実と……ことはちゃんが見つけてくれたキノコでいいわね。食べようか」
飯だと嬉しそうにはしゃぐことはを見て自然と口角が上がってしまう。いけねえ、弥勒や七宝に見られたら面倒だ。
魚にしねえのは近くに川がないからだろう。水の匂いがしない。
かごめの現代(あっち)の食料も底を尽きた今はそこら辺にある食い物に頼るしかないのだ。
まあ俺が食ったのが原因なんだけどな。
「犬夜叉」
「どうした」
「これ、犬夜叉の分だよ!あげるね!」
ことはは右手に持っていた木の実やらを俺に手渡すと当たり前のように隣に座って飯を口に運ぶ。
美味そうに食べることはを横目に俺も手を付け始めた。
相変わらず弥勒は珊瑚にぶっ叩かれて、七宝に冷やかされていらっときた俺が殴りかごめにおすわりをくらい、雲母が小さく鳴いてことはが楽しそうに笑う。
そんないつも通りに夜を過ごし、俺たちはまた朝を迎える。
―――
「それじゃあ、三日経ったら戻ってくるわね」
暫くして、かごめがてすとがあるから現代に戻ると言いだし、渋々ながらも骨喰いの井戸へと来ていた。
聞いたときこそ、奈落を見つけ出さなきゃいけねーだろうが!と歩みを進めようとしたのだが「食べ物もないのよ!」と怒鳴られては返す言葉がなかったのだ。確かに食い物がねえと困る奴らがいるからな……。
「行ってらっしゃーいかごめちゃん!また美味しいものよろしくねっ」
「お気をつけて、かごめさま」
「待ってるからね」
「おらもじゃ!」
「……ったく。三日経っても戻ってこなかったらそっち行くかんな」
「うん。行ってきます!」
全員でかごめを見送ったあとは楓ばばあのたちのいる村へと戻り、かごめが帰ってくるまでの三日間を待つしかない。
てすとがどんな強敵が知らねえが、さっさと帰ってきやがれっての。
大げさにため息をついた途端、視界が真っ暗になる。この温かさは手だろう。
それに、この匂い。
「おいこら。何しやがる……ことは」
「わ、もうばれた」
手が離され見てみれば仏頂面のことは。俺の鼻をなめんなと一蹴すると、案の定肩を落としながら既に次は何をしてやろうと考えていた。
実際怒っているわけじゃない。ことはに要件を聞けば思い出したように言葉を発した。
「楓さまがね、薬草が足りなくなりそうだから取ってきてほしいんだって。一緒に行かない?」
「? ことは一人でも十分強えだろうし、一人でも平気だろ」
「もう妖怪に襲われたときの話とかしてないよー!私が犬夜叉と一緒にいたいの」
「っ、……し、しゃーねーな」
こいつ……変なとこで素直というかなんていうか……。
不本意にも赤くなったであろう顔を隠すべく、ことはの手を無理矢理引いて薬草が生えてる場所へと足を運んだ。
―――
「これが傷が治るのを早めてくれる薬草で、こっちはどこか痛いときに煎じて飲むと痛みがひく薬草なんだって」
「……おう」
「すごいでしょ? 楓さまが教えてくれたこと、覚えたんだー」
薬草を摘んでは持っていた籠に入れる前に俺に見せては説明を繰り返している。
俺はこの先薬草を摘む機会なんてこないのだから別に聞く必要はないが、まあ……今日はたまたまそういう気分になった。
と言ってもほとんど何を言っているのか分からず唯一覚えられたのが先ほどことはが言っていた二種類の薬草だけだ。
籠がいっぱいになったところでことはは俺と視線を合わせた。
「楽しかった!ありがとね」
「楽しかったって……薬草摘んでただけだろ」
「私は犬夜叉と一緒にいれればどこにいたって楽しいよ」
「お前、そういうのわざと言ってるのか?」
「狙ってるわけじゃないよ。本心だもん!」
あー、怒れねえ。
薬草の入った籠を取り上げ、草とことはの匂いを感じながら楓ばばあのところへと戻ることにした。
さり気なく、今度はことはから手を繋がれる。
心が温かくなるのを感じて、ことはの手をそっと握り返した。
お前といると落ち着くんだ