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「ちょっと蛇骨。私が来たら距離あけるのやめてよー。傷つく!」
「うるせー。なら最初から近づくな」
「遠くから話なんて出来ないよ」
「話す気なんてねえし」
「うわ。傷つく」
蛇骨はふん、と胡坐をかいて心底不機嫌そうに私を見ようともしない。
どこまで女が嫌いなんだと少しムッとしたがいつものことだから深呼吸して心を落ち着かせた。
「話すくらいいいでしょ。今だってこうやって話してるし」
「無視したらしつこいし、逃げたら追いかけてくるしで仕方ねえんだよ」
「無視したり逃げたりするのが悪いの。ねえねえ蛇骨。たまには私と普通のお話しようよ」
蛇骨と話すときはこんな会話で終わってしまうことが多々ある。
大抵最後は蛇骨が飽きて蛮骨や煉骨のところへ逃げてしまうんだけど。
今日は絶対どこにも行かせない。たくさん話してやる。もう決めた、これは決定事項だ。
「ふつーの話……?」
「んーそうだな……。たまには蛮骨たちについて詳しくお話したり、とか?」
「なまえに大兄貴たちの何がわかるんだよ」
「優しい。仲間想い。かっこいい」
「お前最後が本音だろ」
失礼な。全部思っていることだ。
だけど、これはいい感じかもしれない。このまま話を継続させ、
「――じゃ」
「は?」
「お前に構う暇なかった。兄貴たちに許可もらっていい男いないか探してくる」
「ちょ、ダメに決まってるでしょ!」
られなかった。蛇骨は欠伸をするとばっと立って私に背を向ける。
本当に行く気だ。私と話していたのに酷い。
「それでも人間なの!?」
「俺が妖怪にでも見えんのかよ」
「少なくとも人間でそこまで強いのは今のところあなたたちくらいじゃないかなあ!」
七人隊で最年少の男の子はあんな重そうなもの片手で持ち上げてるしね!
「ただ出かけてくるって言ってるだけだろ」
「それがダメなんだよ!一緒に話そうよー蛇骨ー!」
「霧骨とでも話してろよ……」
「やだ、蛇骨がいい」
決して霧骨が嫌だとは言っていないから大丈夫だろう。
ここで蛮骨辺りを言われていたら迷ったかもしれないだなんてことは、口が裂けても言わない。
「俺は忙しいんだよ。なまえは他当たれ」
「男探しにいくくらい暇なんでしょ」
「最高に忙しい」
「……もー。分かったよ」
意外にも早く決定事項は意味をなさなくなってしまった。
自分でも諦めの早さに驚いている。
蛇骨は今度こそ私に振り向きもせず歩いていった。
そういえば、前に蛮骨に聞かれたことがあった。
何で嫌われてるってわかってるのに、蛇骨に近づくのか。
私は答えた。
嫌いなら、わざわざ私が話しかけやすいように一人にはならないと。
つまり。
蛇骨はなんだかんだいって、優しいのだ。
(20140616)
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