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 (奈落の分身の子)

目覚めよ、と誰かに低い声でそう言われた気がして、私は息苦しさを感じ上へと手を伸ばした。
どうやら私は何か入れ物のような中にいるらしく恐る恐る頭も上へと動かし顔も出す。確認すれば私が今まで入っていたのは大きな壺であった。
なぜこんなところから…と疑問に思いながら視線を前にやると、私を見つめ口元に笑みを浮かべた髪の長い男の人が座っていた。
私は瞬きをして状況が把握出来ないままとりあえず壺から出る。しかし思うように力が入らず膝から崩れ落ちてしまった。
困ってしまい男の人をちらりと見て助けを求める。だけど男の人は眉一つ動かさず一言おとなしくしていろと告げ、また口を閉ざす。
その声が初めに聞いたものと同じ声なのに気付いた私は言われた通りじっとしていることにした。
多分、この人が私を"つくった"人だ。言うことを聞いておいた方が妥当だろう。

そう決めた瞬間、部屋の襖が音を立てて開いた。びっくりして見ると赤い瞳の女の人が着物を持って立っていた。
綺麗で見とれていると女の人は私を一瞥してから手に持っていた着物を私の方へ投げつける。慌てて受け取れば早く着なと促された。
いそいそと着物を着始めた私を挟むようにして男の人と女の人は話を始める。



「こいつが新しい分身かい、奈落」

「ああ、そうだ…。神楽、こやつ……なまえのことはお前に任せる」

「はあ? 何であたしがそんなおもりみたいなことを」



奈落、そして神楽という名を覚え、更に自分の名前がなまえだと知り私は着物の帯を適当に結ぶ。
……私は着付けがからきしダメらしい。

奈落は笑みを絶やさず声を発した。



「なまえは強力な結界を張れる。わしらの盾となるのだ」

「……盾、ね」



聞いた話によれば私は奈落の分身で、結界張りのお役目らしい。
着終わって正座をしつつ二人の話を聞いていれば、だがという奈落の言葉の続きが部屋に響いた。



「戦闘には不向きだ。連れていくときは倒されぬよう、守れ」

「……ふん。そういつもは連れていけないけどね」



段々と力も入り、きっともう立てるだろうと思い切って足に力を入れてみる。
すると案外すんなりと立つことが出来て思わず感動していると神楽が私を呼んだ。



「おい、ぼやっとすんななまえ。動けるんなら行くよ」

「え。ど、どこに……?」

「決まってんだろ。外に出るんだよ」

「――なまえ」



奈落の口元から笑みが消えた。



「犬夜叉たちを、倒せ」



これが、私の生まれてからの最初の記憶。


(20160205)



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