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「ん……?」



蛮骨の声が前方から聞こえたと思えば、自分の鼻に冷たい何かが落ちてきたのを感じた。
それは次第に増えていき、大量の雲から数えきれないほどの水滴が地面を濡らしていく。
私はそこでようやく雨が降ってきたのだと理解出来た。



「降ってきたね」

「ま。あとは戻るだけだし、ちょっとくらい濡れても平気だろ」



七人隊はたった今戦を終えたばかり。将軍様の元……貸してくれた宿へ帰ろうとしていたところだったため、少しくらい濡れていても拭くものくらいはくれるだろう。
この人たちは風邪とは無縁そうだから、それも心配ない。
しかし長時間雨に打たれるのは冷えるし避けたい。私が早く行こうと催促すると、あんな台詞を吐いた蛮骨も皆もそう思っていたのか、返事をして足早に宿へ戻っていった。



―――


忘れてた。私リュックの中にタオル何枚か入れてたんだ。
宿についてから申し訳ながらもタオルを見せると、七人隊は私を呆れた目で見つめていた。



「ごめんって……ほら、早く拭かないとっ!」

「お前が言うなよ」



蛇骨にチョップされじんじん痛む頭を押さえてもう一度謝る。
こんなときもあるよね、と笑いながら蛇骨の背中をポンポンっと叩くとまたチョップされた。なぜだ。
私と蛇骨がじゃれるように話していれば、いつの間にか蛮骨たちがいなくなっていた。きっとお風呂にでも入りにいったのだろう。既に部屋には私と蛇骨だけだった。
……まあ、私は皆の後に入ればいいか。寒いけど。



「あー、さみー」

「蛇骨も一緒に入ってきていいよ?」

「はあ? 俺が行ったらお前一人になるだろうが」



俺は兄貴たちが出たらでいいや。面倒くさそうに吐き捨てながらごろんと横になる蛇骨。
私が一人にならないようにだなんて、照れるではないか。
なんだか気恥ずかしくなり、私は蛇骨から目をそらした。



「なまえー」

「え?」

「寒いからあっためろ」

「うん……ええ!?」



いきなりそんなことを言われたと思えば引き寄せられる体に声を上げ目を見開いた。
ぎゅうときつく、強く抱きしめられて冷えたというのに顔だけ熱くなってしまう。



「んー、やっぱなまえもあったかくねーな」

「も、文句言うなら離れてよ」

「そのうちあったかくなるだろ。大兄貴がいると近くに寄りすぎるなって怒られるんだ。今くらい……な?」



にっとあどけなさを残した笑みを向けられれば何も言えまい。私は赤いであろう顔を見られまいと一生懸命蛇骨から顔を逸らし続けた。
早く皆お風呂から上がってこい……。まださみーと呟いている蛇骨の声を間近に聞きながら私は小さく息を吐いた。


(20150112)



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