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りんちゃんと阿吽に乗って殺生丸さまの後ろを歩く日々を送って三か月が経とうとしているだろうか。私は歩いていないけど。
もちろんはじめは歩こうとした。でも三日が経ったある日殺生丸さまから直々に阿吽に乗る許可を突然もらえたのだ。
きっと私が歩くのが遅くて旅の妨げになりそうだったからに違いない。だけど、こんな女なのに捨てないで旅を続けさせてくれる殺生丸さま大好きです。私この命尽きるまでついていきますね。
そんな気持ちを込めた視線を送ったらなぜか睨まれてしまった。まさか私の思いが伝わったのか。そんなバカな。



「? わあ!きれーいっ!」

「え。……おお、本当だ」



私の前に座っているりんちゃんが感嘆の声を上げ視線を追えば、そこには確かに綺麗な花畑があった。
そろそろ森を抜けるころだなとは思っていたけど、抜けたらこんな綺麗な花畑が待っているとは。
りんちゃんが大喜びで阿吽から降りて駆けていく。ぎょっとしつつも邪見が怒りながらついていったからとりあえず安心だろう。殺生丸さまもいるし。



「なまえちゃんもおいでよー!」

「これりんっ! 早く戻らんか!」

「えいっ! ……あははっ邪見さま変ー!」

「花を頭に飾るでないわ!!」



ふと気付けばいつの間にか殺生丸さまは近くの木に背中を預けていた。
すっかり遊びに入ってしまったりんちゃん達に諦めたのか、と前の私なら考えただろうけど、きっと殺生丸さまはわざわざここに寄ってくれたんじゃないかなと思う。
思えばしばらく休みなしで旅していた私たち。最近は殺生丸さまが一人でどこかへ行ってしまうということはなかったから、りんちゃんのためにちょっとした精神的な休憩を与えたのではないか。そこまで予想して私は思わず小さく笑った。だって、そうだとしたら優しすぎる。わざわざ口に出してしまってはすごく睨まれるのは目に見えてるから絶対言わないけれど。



「……お前は行かぬのか」



数分経ったころ、いつまでたってもりんちゃんのところへ足を進めない私に口を開いた殺生丸さまは不機嫌そうでもなく、かと言ってご機嫌にも見えないいつもの無表情で私へ問いかけた。
私は可愛いりんちゃんと、いるだけで笑わせてくれる邪見を遠くから見ているだけで精神的に癒される。大丈夫ですよ、と一声かけると殺生丸さまは無言で私を見つめたあと視線をりんちゃん達へ戻した。

そこで阿吽にずっと乗りっぱなしだったことに気付き、私は謝りながら阿吽から降りる。寝てていいよと言えば喉を鳴らしてゆっくり姿勢を低くし目を閉じた。
さて、どこに腰を下ろそうかと見回したところで再度殺生丸さまと目が合う。私は断られることを承知で訊いてみることにした。



「殺生丸さま、隣に座ってもいいですかね……?」

「………」

「あ、すみません……何でもないです」



言葉にしてから大それたことを言ったことに気付き即座に謝った。何てことを言った私。隣とかバカか。せめて後ろって言えばよかった。
怒ったかな……?と少し心配になりチラリと視線を殺生丸さまにやるが、驚いたことに気分を害してる様子はない。安心した直後、殺生丸さまが私に爆弾を落とした。



「……好きにしろ」

「え。……っと、隣に、ですか? ……本気で言ってます?」

「――殺すぞ?」

「け、決してバカにしたわけではなく!! ……失礼、します」



あんな低いお声で誰かに殺すなんて言われたのは生まれて初めてです殺生丸さま。私は若干震えた足で殺生丸さまの隣へ腰かけた。この震えが怯えからではないことくらい分かっていたが、考えては緊張でそれどころではなくなってしまうだろう。私は視線と思考をりんちゃんと邪見に全て注いだ。しばらくそうしていれば落ちつくはずである。
予想通り少し経てばなんとか落ちついたようで平常心を取り戻せた。すると横から何か視線を感じる。隣にいるのは一人しかいないため誰なのかはすぐに分かったのだが、いかんせん見られる理由が不明だ。気付かないふりをしているがバレるのは時間の問題となるだろう。意を決してゆっくり顔を横に向ければやはりこちらをじっと見つめる殺生丸さまがいた。



「どうかされましたか……?」

「………」



一向に話そうとしない殺生丸さまに首を傾げる。見つめ合っていたがすぐに殺生丸さまの方から顔をそらしてしまった。何だったのだ?、と私も前を見ようとした……そのときだった。



「わ……!!」



肩が押され、おそらく相当強い力で殺生丸さまの肩に飛び込んだ。もこもこ……うわ、何これ何ですかこれ殺生丸さまのもこもこ……き、気持ちいい……! そういえばこれの正体は何だろう、尻尾? 尻尾なんですかこれ?
とにかく痛みは緩和されたが飛び込んでしまったことに謝罪しなければ。しかし謝ろうとして気付いた。自分の肩へ私を押した人物、殺生丸さましかいないではないか。私の肩には殺生丸さまの手がしっかり添えられていた。



「寝ていろ」



目線はあくまで前を向いている。でもその言葉は確実に私に向けられたもので、言いたかったことを忘れてしまい唇を噛んだ。だってこんなのずるいですよ殺生丸さま。つまり休息はりんちゃんたちだけに与えたわけではないと……?



「あり、がとう…ございます……」



ふん、と鼻を鳴らせた殺生丸さまの肩に自分の体重をかけながら顔の色が赤くなっていないことを祈り、そっと目を閉じた。

次に目を開けたとき、首に寝る前にはなかった違和感を感じて重い瞼を擦りながら首元を見る。するとそこには花の首飾りがあった。りんちゃんを見れば手を振っている。もしかしなくてもりんちゃんが作ってくれたものであろう首飾りを優しく握って笑顔を送った。――大切にしよう。
もう少しだけ寄り添っていたいから、殺生丸さまからは離れないでいようと思う。きっと起きていることなんて気付いているはずなのに何も言わない殺生丸さまの優しさに甘え、私は時折吹く心地よい風に目を細めた。


(20151231)



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