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「ああ、ああああ、あのね……っ、あのねっ!」
「ナンダカ顔ガ赤イヨ? 大丈夫?」
「う、うん…!心配してくれてありがとう……! あのね、私…私っ!」
山本くんが不思議そうに自分を見つめてくるのがひしひしと伝わってくる。
忙しい時間を自分のために割いてくれたのだから早く用件を言わなければ。なまえは深呼吸をして山本くんの名前を呼んだ。
「……なまえサン、ダッタヨネ?」
「! わ、私の名前、知っててくれたの?」
「同ジクラスダカラ」
エヘヘ、という山本くんの嬉しそうな笑い声を聞いて、なまえもつられるように笑った。
下校時間、つまり今は放課後で自分が手紙で呼び出したために教室にはなまえと山本くんしかいない。
もちろん呼び出して言うことなどただ一つ。なまえは山本くんに思いを打ち明けようとしていた。
「イツモ、クラスノタメニ頑張ッテクレテ、本当ニアリガトウ」
「そ、そんな……山本くんに言ってもらえると、なんだか嬉しいな……」
すっかり山本くんのペースだがここは腹をくくらなければいけない。
「や、山本くん!」
「ドウシタノ?」
「……私…っ! 山本くんのことを!」
ずっと抱きしめてみたかったの!
なまえは言えた…と一人心躍っていたが、見れば山本くんが訳が分からないと首を傾げていた。
「ダキシメル?」
「ややや山本くん可愛いし…、つい、こう……ぎゅっとしたくなるっていうか…ダメ……?」
「イヤ、ビックリシタダケ! なまえサンガ、シタイナラ、ドウゾ」
「わっ、ありがとう…!」
恐る恐る手を伸ばして、小さい体をぎゅうっと抱きしめてみる。
可愛い……と興奮して力を強めてしまったのか、痛イという声がして慌てて離した。
「ご、ごめんね山本くん!!」
「フフ、なまえサンハ表情ガ豊カデ面白イネ」
「面白い?……照れるなあ…」
言いたいこともやりたいことも出来た。なまえは山本くんにお礼を告げたあとに帰ろうと持ちかける。
「ソレナラ家マデ送ルヨ」
「え! そんな、呼び出した挙句送ってもらうなんてさすがに悪いよ…!」
「ボクハ、ドコカラデモ帰レルカラ平気」
「そう、なの?」
ランドセルを背負って行こういこうと歩いていく山本くんの言葉に甘えて、なまえは一緒に帰ることにしたのだった。
きっと、今日なまえが抱きしめた山本くんの感触はこの先忘れることはないだろう。
(20141221)
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