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がちがちに緊張した私を見てかごめちゃんは苦笑しながらもう少しリラックスしていいのよと声をかけてくれた。
かごめちゃんと同じく現代から戦国時代へタイムスリップをしてしまったのはもうずいぶん前のこと。
昨日のように思い出す、ここで起こった出来事は私の大切な思い出だ。
だけどそんなことを今いちいち思い出していたら、私の頭はパンクしてしまう。
だって、だって……、私は先ほど、犬夜叉と祝言を挙げたばかりなのだから。
「なまえ、落ちつけって」
「……う、うん……っ!」
「……ほんとに大丈夫か、お前」
正直落ち着くことなんて出来るわけがない。
心臓は爆発寸前で、犬夜叉の声を聞くだけで恥ずかしさで倒れてしまいそうだ。
犬夜叉は恥ずかしくないのだろうか。勇気を出して犬夜叉をそっと見ても犬夜叉の態度はいつもと変わらない。
なんだか私だけ緊張しちゃってバカみたいじゃないか……。
「犬夜叉……好きです……うう……」
「おう。知ってる」
恥ずかしがれよ……。泣きそうだ……。
かごめちゃんは気を使ってくれたのだろう、私と犬夜叉の二人きりにしてくれた。
だけど今はその心遣いが少し苦しい。でもありがとう。
「……犬夜叉。恥ずかしさを紛らわす方法教えて……」
「なんだ、なまえ恥ずかしいのか」
「当たり前だよっ!好きな人と、あ、憧れの結婚式挙げたんだもん!!」
今まで澄ましていた犬夜叉の顔が私が叫ぶと少しばかり驚きで染まる。
自分の言ったことを思い出して私は更に恥ずかしくなり顔を手で覆った。
ああもう、井戸があったら入りたい……!
「はあ……、考えられない、信じられない。私本当に犬夜叉と結婚したんだ」
「なんだよ。嬉しくないのか?」
「……嬉しいから恥ずかしがってるんでしょ分かってよ」
「怒んなって」
俺だって恥ずかしくないわけじゃねえよ、と頬をかきながら犬夜叉は呟く。
嘘つきだ。全然大丈夫そうな顔してるくせに……。
「……別にいいだろ? 恥ずかしいなら恥ずかしがってればいいじゃねえか」
「見捨てるの!?」
「ばっ、ちげえよ! し、証拠になんだろ!」
何が、と聞こうと顔を覆っていた手を外すと、目の前にあったのは犬夜叉の大きな手。
腕を掴まれ引き寄せられて私がいたのは、温かい犬夜叉の腕の中だった。
突然のことに慌ててそこから脱出を試みようとして気付く。どくんどくん、と確かに速いリズムで鳴っている心臓の音。
私のではなく、犬夜叉の。
「犬夜叉……」
「忘れないように、今日一日緊張したままでいればいい」
一生忘れんなよ、今日のこと。
未だに私と同じくらいのスピードで心臓が動いている犬夜叉を見上げ、うんと消えそうな声で囁く。
私のために言葉を選んでくれたのだろう……そう考えると、すごく嬉しく感じる。
忘れないようにしよう。この恥ずかしさを忘れず、これからも犬夜叉と一緒にいよう。
「ポーカーフェイス苦手なのにおかしい……ふふっ」
「ぽーかー……ん?」
「何でもないよ」
犬夜叉の胸に耳をあてて、私はしばらく心地よい音を聞いていた。
祝言を挙げても変わらないものはこの心地よさ、なのかなあ。
思わずもれた笑みに、犬夜叉は不思議そうな顔をして私を再度抱きしめた。
(20140917)
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