11 ザマカン『しっぽ』



『触ってもいいか?』

 ソファーで寛ぐカンバーの隣に腰かけたザマスは、たしたしと退屈そうに座面を叩いていた尻尾を見つめた。カンバーは返事の代わりに黙ってその手先に尾を差し出すと、くったりともたれて窓の外を仰ぐ。

 そっとその尾を掬うように持ち上げ片手人差し指を毛並みに差しさ込んでみると、思っていたより毛は深く、また髪と同様にやや癖があることもわかった。毛皮の表面と比べてその下の皮膚は温かく、よく指先に集中するとしっかり血が通る脈動も感じられる。
 指を離して軽く握ってみると、最初は少しひんやりしていた毛皮にどちらかの体温が伝わって温まっていくのが観察できた。付け根から先端へ、毛並みに従うように撫で上げればさらさらとした感触が心地よく、反対に毛の流れに逆らって撫で下ろすと少しチクチクした抵抗感が癖になるようだった。
 更に持ち上げて口許に近寄せ匂いを嗅ぐと、彼が使っている石鹸の香りと特有のフェロモンを感じた。匂いまで嗅がれて若干恥ずかしそうに眉を潜めるカンバーの隣で、ザマスはうっとりと目を閉じて触覚と嗅覚から愛する男を存分に堪能していた。

 その時、あまりにも無遠慮に扉が開いて眼鏡の男が入ってくる。

『っ!』

「あっっっ!」

 ぶちり。驚いて強く引っ張ってしまった尻尾が派手な音を立てて引きちぎれた。反射でびちびちと手の中を暴れまわるそれをおさえつけ、どう取り繕っていいかわからず狼狽するザマスは、尻をおさえて悶絶するカンバーの指の隙間から赤が溢れているのを見てそっちに片手を当てる。

『ちょっと物を取りに来ただけだよ、何? キミ達そんな親しかったの?』

『うるさい! あああ、悪い......すぐに戻してやるからな』

 からかうように目を細めて意地悪く言ったフューに一喝した次の瞬間、ザマスの手の中に光が寄せ集まって元のような尻尾になった。痛みも静まり落ち着いたカンバーは、すっかり馴染んで動くことを確認しながらもう一本の尻尾をただ見下ろした。

『くっつければよかったじゃん』

『これは私が貰っておく......』





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