10 カンザマにしか見えない『神の琥珀』




“処分予定の実験動物が脱走したから見つけ出して駆除して欲しい”

 そう呼び出された妙に蒸し暑い島は、気味の悪いキメラ達が荒らし回っていることを除いては、好ましい環境に恵まれた自然の宝庫だった。
 気配を消すのが上手いか、もしくは非生物ということもあって探すのが手間ではあったが、私と同様に呼び出されていたカンバーの協力もあって思っていたよりも作業は早く終わりそうだった。
 とはいえ、いつまでもあんな単細胞生物と居てはこちらもどうにかなってしまいそうだ。相変わらず周りを見ずに暴れるだけの様に苦言を呈したくもなったが、今は無視して索敵に努める。

 黄金色の樹液に昆虫が群がっているのが見える。この辺りに隠れているはずだ、と脱走動物のリストを見ると、視界の端の樹液の一部がこちらに飛び掛かってきた。どうやら巧妙な擬態生物のようだ。
 咄嗟のことに接触を許してしまったが、すぐに焼き払えばいいはず......とまで考えて、体の異変に気が付いた。

「うっ......!?」

 張り付かれた右半身から異様な早さで力が抜けていく。神の力を吸収する能力がある、と悟った頃には既に上半身を取り込まれていた。
 手に溜めた気は片端から吸い取られ、触れた箇所から流動性を持って掴むこともままならない。もがいている間に肩当ても眼帯もグズグズに溶かされてしまい、どうしたものかと焦り始めた頃だった。
 急にそれが引き剥がされるような感覚に襲われ、自由になった体で見上げると、カンバーのあの赤黒い手指がそれを摘まんで持ち上げていた。そのまま握り潰されて消滅するのを見て、無様にも助けられてしまった悔しさが込み上げてきたがぐっと堪え、剥き出しの右目を手で覆って隠しながら彼がいるであろう方向に声をかける。

「か、借りを作ってしまったな......ッヒぐ!」

 ごり、鈍い嫌な音を立てて右肩関節が外れてずり落ちる感覚がした。力を奪われすぎたのか、体と衣服の再生が上手くできない。左手で右肩を押さえているうちに、今度は右目玉が零れ落ちてしまった。
 腕か目玉か、逡巡した後に目玉を拾おうと手を伸ばすと、今にも千切れ落ちそうだった右腕がふっと持ち上がって楽になった。

 ......カンバーが近くに降り立つ気配がして、私の肩には肩当てのように彼の気がそっと巻き付いていた。

***

 刹那、空間の一部が歪んで依頼主......フューが現れる。

「お疲れ様〜、今ので最後だよ」

 のうのうと手を叩きながらこちらを見下してくる様に無性に腹が立ってしかたがない。恐らくは、どこかからかずっと私達を見ていたのだろう。

「大分苦戦してたね、ボクの作った試作品達はどうだったかな?」

「どうもこうもあるか! 神への冒涜行為だ、許せることではない!」

 思わず掴みかかったが先の負傷は重く、軽々と避けられてしまう。せっかく嵌め込んだ目玉がまた落ちてしまうのでそれ以上の追及は諦めることにした。

「まあそうカッカしないでよー、元々は本当に事故だったんだからさ」

 ふわりと中空に浮かび上がった彼は紙とペンを取り出して何かを書き込んでいた。カンバーは私の斜め後ろで今にも飛び掛かりそうな雰囲気は出していたものの、私の肩を支える気を維持するために動けないでいるのだろう。

「ところで......」

 フューはペン先で私達を交互に指し、興味深そうな、しかし小馬鹿にするような顔で口を開いた。

「キミ達、そういう関係だったんだ?」





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