7 ハツザマ『私はひとりになった』




 時折、ぞっとするほど寒くなる。物理的に冷えているわけではない。真夏の炎天下であってもどうしても腕が、脚が、ひどく冷えたように感じて震えが来る。単純に日光を浴びても、湯に浸かっても、その寒さは殆ど変わらなかった。毛布を被れば少しは和らいだが、私はそういう時は、決まって己をそっと抱くように両腕を回したり、膝を抱えて摩擦したりして暖めた。

「おはよう、ザマス」

 庭園の隅、木陰で膝を抱えていると、いつのまに接近したのかハーツがすぐそばの日向に立ってこちらを見下していた。寝起きの下ろした金髪が朝日を受けて白金に煌めくのが、紅葉の目立つ庭によく映えている。
 この庭は殆ど私が独占しているような状態であったので、縄張りを侵犯された肉食獣のような心づもりで、簡単に挨拶を済ませた。

「今朝は少し冷えるね」

 冬も間近の秋の終わり頃、それでも十分に晴れた今日であれば、太陽を浴びている彼には十分暖かいはずだった。しかし私は、そう言われた途端に少しだけ寒さが和らいだのが不思議で、少しだけ会話に付き合ってやろうと思った。

『お前は日の光に弱いのではなかったか』

 見るからに紫外線に弱そうな病的な白肌と紅い双眸が意味深に陰る。

「なら場所を代わろう、キミは寒いんだろう」

 木陰はまだ十分にスペースがあるのに。動かないままでいると、彼は羽織っていた上着を脱いで私の肩にかけた。すぐに脱ぎ捨てようかと思ったが、それが存外に温かく心地よかったもので、振り払おうとした腕が自然と止まった。
 しかしその温もりはあっという間に掻き消えてしまったように感じて、身震いしながら上着を体に押さえつけて密着しようとする。

「ザマス、」

 彼は私と対面すると、子供に言い聞かせるようなトーンで言った。

「人間に限らずすべての生き物は、二つなければ寄り添い合えない」

 肩を抱く私の手に、その白い手がそっと乗せられた。その体温に何かどうにも抗いがたい衝動が起こり、しかしどうしていいかわからず、少し前屈みになるだけだった。
 すると突然ふわりと甘い香りがして、体が熱に包まれて、私は咄嗟にその熱に縋った。......ハーツは私を抱き締めていた。私は抱き締め返していた。優しい金木犀の香りがする。私は秋の始まりと、ずっと昔の、別の温もりが隣にいた時のことを思い出した。

「キミにはキミがいたが、いまはいないんだ」

 彼が私の背中を軽く叩いたので、名残惜しくも腕を解いた。私はこの温もりを知っている、知っていた。そうか、私が寒かったのはきっと、


 ハーツが踵を返して去っていく。彼の上着と、甘く柔らかな空気を残して。

 ......私はひとりになった。






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