3 ザマカン(リク)


リクエストより「Aの発言が何らかの地雷を踏んで、怒ったBが顔を真っ赤にして、蹲るAの体をクッションで叩きまくる」
癇癪持ちザマスとDV慣れしてるカンバー


 共通のリビングルームのソファーでくつろいでいると、廊下からフューの気配が近付いてきた。無意識のうちに体を固めていたカンバーは、気配がドアの近くで引き返していったことで肩の力を下ろして溜めていた息を吐いた。
 間も無く、落ち着いた足音と共にザマスが入室してくる。神の気配はまだカンバーにはわからなかった。油断していたが、フューと比べればまだ安心だ。もっとも、ある条件さえ満たさなければの話ではあったが。

「お疲れ様」

『ああ、ありがとう』

 彼と遭遇した時は必ず一言挨拶するようにしていた。というのもザマスはいわゆる癇癪持ちで、些細なことで突然烈火の如く激昂しカンバーを切り刻んでくることがしばしばあったからだ。怒りの基準はかなり曖昧だったが、神に対する礼を欠く言動はわかりやすい目安の一つだった。

『一時間後にお前の番だ、第二研究室の方に行くように言われたぞ』

「わかった、ありがとう」

 そのままザマスは歩み寄って隣に腰かけてきた。長時間研究室に居たのだろう、薬品の匂いを纏っている。そういえば確か今日は半身の治療の薬を注射される日だったはずだ、そういう日にはいつも以上に怒りの基準が謎であった。若干緊張しながら、無駄口を叩かなければいいと高を括っていたのだけれど。

『お前は可哀想だな、治療の必要もないのに変な薬を打たれたりして』

 こんな日に限って話しかけてくることもあるのだ。哀れまれるようなことは今まで一度もなかったので不意打ちに驚き、しかし無言もまずいと分かっているので反射的に口を開いた。

「ザマスだって、いつまでも怪我が治らなくてつらいだろう」

『なっ......』

 ザマスは銀色の目をかっと開いて勢いよく立ち上がった。カンバーは地雷を踏んでしまったことを瞬時に理解し、神の御手に刃が纏われないうちにその場にしゃがみこんで防御と懺悔の姿勢をとった。目を瞑る直前に見えた振り上げられた片手が落ちてくるのをじっと待っていると、一呼吸の間を置いて襲ってきた衝撃は、想像していたよりもずっと鈍く重いものであった。

「え......っ?」

 ぼすん、ぼすん! 生き物の感触ではない、柔らかくも重厚な音がする。視界の隅に捉えたソファーの上にあったはずのクッションが消えており、ザマスがそれで殴り付けてきていることを理解するのにそう時間はかからなかった。

『どいつもっ、こいつもっ! 不死身の、癖にっ、などとっ! やかましいッ......! やかましいッ!』

 何度となく全力でそれをぶつけてくるが、当然殺傷能力はなく可愛いものである。彼はどうやら、傷がなかなか治らないことを気にしていたらしい。それ以外にも色々な思いの丈を愚痴り、ぶつけながら渾身の力でクッションを叩きつけていくごとに、彼の口調は段々楽しげになっていくようで。

 結局ザマスは息が上がるほどそれを続けていたものの、手にしていた武器が縫い目から裂けて中の綿を飛び散らせたのを機に動きを止めてしまった。恐る恐る目を合わせたカンバーは神の瞳から怒りの色が消えていることを確認すると、一言謝ってから髪についた綿を払い、膝立ちの状態まで起き上がる。
 足の位置を変え体ごと視線をそらして窓の方を向いたザマスの横顔には、いつもの八つ当たりの後とは違い、どこか清々しいような雰囲気まで感じられた。そのままソファーに座り直したカンバーの方を向かずに、退室すべく廊下の方へ歩いていく。

『おまえだって頬の傷をいつまでも治さんではないか』

「これは治らないものなんだ」

『私なら治してやれるんだがなあ』

 そんな言葉を最後に残して。 








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