2 ハツ+ザマ(リク)
車椅子ハツとザマ
からからから。ハーツは真っ直ぐにキッチンへ向かう。部屋の境の段差に少しだけ気を付けながら扉を潜り、窓の鍵についた紐を引っ張って解錠すると、換気するべく窓を開け放した。小鳥の鳴き声、爽やかな風、穏やかな朝日。
にゃお。わざとらしく鳴きながら、白い猫が飛び込んできた。彼はしばらくハーツの周りをぐるぐる回ると、膝に飛び乗ってくる。
「やあ、おはようザマス。今朝はキミが手伝ってくれるのかな」
顎の下、顔の脇、肩周り、背中を撫で上げて尻尾の付け根へ。丁寧に愛撫すると、猫はゴロゴロと喉を鳴らしながら、耳飾りをちゃりちゃり言わせて喜んだ。ハーツがそのままタイヤに手をかけ水瓶の前まで移動すると猫は床に降り立ち、人の姿に変わった。
『今日はどうする?』
水瓶の蓋を開け、柄杓で水を汲み顔と手を洗うハーツに続いて彼も軽く身を清めた。水気を綺麗に拭うと、戸棚を開けた主の背後から一緒に覗き込む。
「トマトの鮮度がそろそろ怪しくなりそうだ、スープとパンでいいだろう」
いくつか野菜を膝に乗せて自分用の作業台に移動したハーツは、ザマスに汲んでもらった水でそれらを洗ってから手際よく処理しはじめた。
一方ザマスは鍋に水を入れ火にかけながら、貯蔵庫から取り出したパンの種をかまどに放り込んで焼いていく。挽き肉と、ハーツが切った野菜を順番に鍋に放り込み、味見をしながら香辛料や香草を混ぜて味を整えて。
『この生活にも大分慣れてきたようだな』
「キミ達がいなかったらとても立ち行かないよ、いつも感謝してる」
そんなことを言い合いながら協力して洗った食器を食卓に並べ、それぞれ異なる種類の美味しそうな香りが最高潮を迎えたところでザマスは鍋の、ハーツはかまどの前へ向かう。
「いい感じだ」
『こっちもだ』
今朝も最高の朝食になりそうだ。ふたりは顔を見合わせると、どちらともなく微笑みあった。そろそろ匂いに気付いた同居人達が起き出してくるだろう。
お礼と労いのつもりでザマスの顎に手を伸ばして撫でると、彼は幸せそうにゴロゴロと鳴いた。
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