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紫「なあ、親父」
週に一度、家族が顔を揃えた晩餐にて。紫はサラダを啄みつつ口を開いた。
父「なんだ紫」
紫「俺さ、ホモになった」
固まる空気。金は鼻からスープを吹き出し、青は般若の形相で紫を睨み、パラガスは少しの間放心していた。伝説と黒は耳だけ傾けながら肉を口に運んだ。
なんでもないような顔で爆弾発言をした本人は至って冷静に、皿に残ったコールスローを1本ずつつまんでいる。息子のカミングアウトを思わぬタイミングに受けた父親は動揺を一旦胸にしまい、それから紫の様子を少し観察。
父「そ、そうか………」
その声に怒りの色はない。紫は何を思っているのか、それはもはや誰にも推測しかねた。
父「よく、カミングアウトできたな………偉いぞ。」
父親の意外な返答に最も驚いたのは金だった。紫は顔色一つ変えず、また食事の動作を止めることもなかった。
紫「親父は、同性愛者を家から追い出そうとするか?」
父「い、いや」
暫しの緊張が走る。さっきまで肉汁を啜っていた二人も流石に空気を読んだのか、その手を止めて家族の顔を見回した。
父「私は、そういうのはいいと思うぞ。おまえは悪い子ではない。本当に愛する人がいるのだろう?」
紫「ああ、ならよかった。俺と青は、恋人同士なんだ。」
室内を全くの無音が襲った。ほぼ全員が冷や汗を流して固まる中、紫は肉を黒の皿に分けて水を飲み干す。青は顔面蒼白で全身を震わせながら氷をガリガリと齧っていた。
父「そうか……」
父「いや、待ってくれ」
父「そうか…………」
俯いていたパラガスは顔を上げ、瀕死の青と平常な紫の方を見遣った。
父「おめでとう。」
紫は嬉しそうに微笑み、父親に向かって頷く。驚いたように目を開く青。思考が色々と追い付いていない金の皿から肉を横取りした伝は更にその肉を黒に横取られた。
父「お……おまえたちも、こういうことは自由にして大丈夫だからな。何かを愛することは何も間違ってはおらん。 サイヤ人は私達以外この星にはいないのだから、性別だとか家族だとか身分だとか、そういうことに囚われないように恋愛していいん、だ…」
紫「ありがとう親父。受け入れてくれてありがとう。」
青は既に半泣きだった。(決して感動で泣いているのではない)パラガスのこの優しい言葉を皮切りに兄弟達はお互いを探るような目で見始めたが、そのことは無視しておくことにした父親だった。
紫「お礼にこれ、親父が欲しがってたアンティークの時計」
彼が懐から取り出したのは白く美しい懐中時計。それを父親の手に握らせると、手を合わせて空になった皿を台所へ持って行こうとした。
父「ど、どうやってこれを手に入れたんだ」
キラキラと音を立てて時を知らせる懐中時計。紫一人どころか、兄弟全員の小遣いを合わせてもとても買えない代物だった。
紫「どうって………」
紫「体を売ったに決まってんだろ」
父「ちょっと待って」
この後自分の息子達がことごとく同性愛に目覚めてしまうことを、彼はまだ知らない
おわり
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