その夜俺は、また紫を殺していた。これで何度目か。今日でもまだ3度目。
ベッドに横になったかと思えば、気付けばそこははっきりとした夢の中で、そして俺はなんの理由もなく紫を殺す。絞めて、刺して、潰して、捻って、燃やして、落として、犯して、食べて。はじめのうちは抵抗していた紫も、今となってはそれを大人しく受け入れるようになった。彼の体が冷たくなって動かなくなったところを何度見た事か。
俺は今夜もまたグロテスクな音を立てながら、一つの命を当たり前のように奪う。
その時は漠然とした意識の中で俺は部屋の真ん中に立ち、いつものように紫と対峙していた。紫は俺を意外そうな目で見上げ、そしていつもの顔になった。

『また、俺を殺すのか?』

よく分かってるじゃないか、俺は彼を見下ろしたまま頷いた。

『わかってるよ。これで何度目だ? まさか兄貴も同じこと思ってたなんて、なあ?』

自分の首を撫で、どこか嬉しそうに、彼は近付いてくる。こんなに従順なのははじめてだ。本当にこれは夢なのか、なんだかよくわからなくなってきた。

『絞め殺されたいよ、兄貴。お前の手で、直接』

俺の腕を掴んでそっと持ち上げるゆっくりとした動作。俺はなんだか言いようのない痛ましい気持ちになったが、同時にひどく興奮していた。他人のもののように自分の手を動かして、人よりも冷たい紫の頬に触れる。

『これは、本当に夢なのかなあ。少なくとも俺は、こんなに兄貴が愛しく思えるのははじめてだ。……だから殺されてみたい』

胸に口付けを落とされ、そうして俺はまた彼の首に手をかけた。幸せそうなその顔を見ると俺も嬉しくなって、そっと力を込める。

……しかしどうにも“いつも”と感触が違う。彼の喉は思っていたより柔らかく、あたたかく、そしてずっと細かった。片手でも十分なほどに、どんなときよりもずっと簡単にその喉は締まった。彼の脈拍が、重さが、力なく空を掻く脚が、なんだかふと恐ろしく感じて慌てて手を離す。咳き込みながらごとりと落ちる体。
 紫は暫くその四肢を冷たい床に投げ出して呼吸を整え、漸く落ち着くとこっちに視線を寄越した。彼は楽しそうに可笑しそうに笑って、掠れた弱々しい声で

『兄貴、ひどい顔してるぞ』

 その時はじめて俺は、自分が焦っていることに気付いた。額に触れると濡れた感触がある。ぞっとする。青ざめた顔で笑う紫を見て安心する気もした。立ってられずその場に座り込むと、紫は腕をついて起き上がり、蛇のようにそろりと俺の腕に絡み付いてきた。すっかり力が抜けている紫の背にそっと手を回すと、甘えるように俺の胸に顔を刷り寄せて静かに笑う。

『やっぱり、死ぬのはこわいな』

 少ししてから聞こえだした、安らかな寝息。釣られて眠くなってきたので俺も横になった。もしまた一緒に夢を見たら、今度は殺すのはよしておこうと思った。



おわり




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