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勝ち取った栄光を抱き締め、独り占めにできる夜。愛しい栄光はオレの腕の中でやすらかに眠り、静かな吐息が胸を擽って甘い香りを運んでくる。
正直いってこの時間はとても幸せだ。もうこれ以上ないくらいの至福のひと時だ。無防備に晒された寝顔も、絡みつく脚も、よくわからない寝言も。これは正に天使としか言いようがない。あまり観察し過ぎると興奮してしまって眠れないこともあるが………
「黒………v」
ピアス穴のついた可愛い耳に甘い声で囁いてみる。当然反応はなかった。というのも、この可愛い弟はかなり眠りが深いタイプなのだ。(だからといって決してよからぬイタズラができるとかそんなつもりは絶対に決して多分恐らくきっとない)
一緒に風呂にも入ったからか、今夜はいつもにまして愛が止まらない。食べちゃいたいくらい可愛いというやつか。決して性的な意味ではなく。
だからオレはそっと黒の背中に手を回し、服の裾に手を入れた。
開幕一番、柔らかな尻尾が甲に触れてきた。思わずそっちに手が行って、なめらかな毛皮をそっと掴むように撫でる。うちは全員鍛えているので反応することはないが、それでも尻尾を手にするというのはどこか優越感と征服欲が満たされるものなのだ。
うにうに動く尻尾を先端までなぞって手放すと、その動きに導かれるようにして辿り着いたのは背骨の一部のようだった。腰辺りの出っ張ったところだ。滑らかな肌の突起が手のひらに気持ちいい。寝汗のせいかしっとりと暖かく、夢中になって凹凸をなぞっているうちにその手は再び尻尾の根元近くまで下りてきた。
『………んくっ……』
突然、腕の中の体が跳ねた。起こしてしまったかとドキドキしながら顔を覗いたが、一瞬乱れた吐息は、規則正しい寝息に戻っている。
オレの人差し指は、黒の尻尾の根元…よりほんの少しだけ上の部分に触れていた。
「あ。」
ふと親父の言葉を思い出す。犬猫は尻尾の付け根に気持ちいいところがあるから、そこをマッサージすると喜ぶ、と。
(そうか、黒………気持ちよかったのか)
ムラムラといけないものがこみ上げてくる。黒は気持ちよくなったらどうなるんだろう。紫みたいに続きを要求して、そしてさらなる深みまで引きずり込まれてしまうのか………
『んっ………う…………ァ』
気が付くと指先は“性感帯”を愛撫していた。ゆっくりと擦るような動き、形を確かめるようになぞる動き、そして1本の指がそこを軽く叩いた時、その体は強くオレを抱き寄せてきた。
「いまのがよかったのか……?」
とんとん、とんとん、一定のリズムで続けると黒は面白いように跳ねて腰を振った。尻尾は腕に絡んできて、もっともっとと要求している。
『あ……v んゅ、ぅ………』
流石にこれ以上はまずいんじゃないか。しかしオレの心はもう、引くに引けないところまで来てしまっていた。いっそ起きてくれ。もっと可愛い声を聞かせてくれ。耐えきれないとでも言うようにオレにしがみつき震えるその体を引き剥がして、顔を覗いた。
『んえっ………にい、さん………… ???』
(ぜ、前言撤回!!!?)
顔が赤く、息は上がって、そして上目遣いの顔と思い切り目が合ってしまう。布団の隙間に冷たい風が吹いてはじめて、自分たちの体がかなり熱くなっている事に気が付いた。
「ァ、ア、ア、すまん黒、悪気はないんd…」
『もっと、してほしいです………』
「」
『……兄さん?』
処理が追いつかない。待って時間、止まってくれ。
黒は起き上がるなり、固まったまま動けないオレをきょとんとした顔で見下ろした。
『そっかぁ。』
不意に両脚を掴まれ、そして肩に担がれる。おいおい待ってくれよこの状況はまさか、
若干勃ってしまった股間をまじまじと見下ろされ、動悸が激しくなる。顔にカイロでも当てられてるんじゃないかってくらい、熱い。
「おいおい黒………お前そんな積極的な……v」
『じゃあお返ししてあげますね!』
「うぶっ!?」
唐突に黒が覆いかぶさってくる。その肩に引っかかったままの脚はそのまま顔と一緒にやって来て、それはまるで……セックスしているような体勢になった。あまりに唐突だったので変な息が漏れたが、黒はにこやか。
「黒? 何これ………逆じゃない、か……?」
『いいんですよ、さあ、気持ちよくなってくださいね』
「ヒイッ……!?」
尻をまさぐられ、腰元を擽るように動いていた黒の手が辿りついたのは………一瞬の衝撃に混乱しかけたが、そこは間違いなくオレがさっきまで触っていたトコロ。尻尾の付け根のあそこだった。
「っア……! ちょ、黒っ! んんっ!?」
すりすりとんとん、腰が甘く痺れて背中を駆け巡り、胸の奥にじんわりとした幸せになって消える。体勢のキツさなんかどうでもいいくらい気持ちいい。体がポカポカして、とっても幸せな気分だ。
『兄さん、こういう事は僕が起きてる時にしてほしかったです』
「っン! ごめ……ぁうっv」
気持ちよすぎて何も考えられない。しかし刺激はどんどんと小さくなっていた。足りないとは思わない。既に体中が幸せで満たされているようだ。
やがて愛撫は止まった。腰に回されていた手はいつの間にかオレの顔を捉えている。
「ぁ……っく、ふぅ、ふぅ、」
『気持ちよかったですか?』
「……っ、よかった………」
うにゅうにゅと頬を撫で回される。それから黒はすぐに元通りに横になって、オレはやっと深く息を吸えるようになった。
湯にでも浸かったかのように体はあったか、頭は幸せいっぱいで、それでいて体の疲れも吹っ飛んで元気になったような気がする。あんなに気持ちよかったのに、いつの間にかオレの息子は萎んでいた。射精もしていない。
『ここマッサージするとすっごく気持ちいいんですよね〜。とんとんされるともっと凄い。疲れがあっという間に吹き飛んじゃいます。』
「気持ちいいって、そういうことかァ〜〜………」
どこか残念な一方、過ちを犯さないで済んだと安心もした夜。多幸感に包まれて、オレ達はいつもより深い眠りに落ちた。
おわり
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