いままでのどれよりも乱暴に始まった接吻は呼気が整っていくごとに丁寧になっていき、落ち着いた頃には彼の目もすっかり正気を取り戻していた。特定の舌の動作でいまだに繋がったままでいる腹の中が締まるのをぼんやりと感じながら、自分は二度も達したのに相手は何一つ満足していないであろうことを思い出す。

『ん、今度はおまえが俺に入れてくれないか……?』

「……今回の発情はあまりに強いな?」

 次で三度目になることを踏まえ流石に相手の健康とついでに正気を疑うような素振りを見せた彼は、腰を浮かせて陰茎を引き抜くと自身の体を清めた。ブラックが強請るような目を向けながら相手の太股を湿った手で撫でると、ザマスは溜め息を一つ吐いて今度は男性器を発現させる。特にこれといって変哲のない、人間型の陰茎と睾丸だ。
 まだ萎えているそれをぶら下げたまま四つん這いになって少し身を引き、ブラックの下履きを完全に取り払ってしまう。少し芯を持ったベージュのペニスを柔く食みながら足を開かせ、引き締まった臀筋を揉みこんだ。手の動きに対応して定期的に外気に晒される肛門にまで、どちらのものともつかない体液が垂れて軽く濡れているようだ。

『体の奥が切ないっ、早くしてくれ……!』

 急かされたザマスが右手に軽く力を込めると、指先から油が分泌され滴った。そのままぬるついた中指を窄まりに押し付け、表面をやわやわとマッサージ。段々と熱く柔らかくなってきたそこに容易く指先が入るようになれば、もう少し奥に滑り込ませて今度は本格的に直腸を探り始めた。
 指の腹で腸壁を擦り、緩く挿抜し、深くまで差し込んだまま腕を振動させて腹の中を刺激する。小さく鼻にかかった声を漏らすブラックは、前立腺を絶妙に刺激され上手く勃起できないまま先走り液だけをひたすらに零していた。人差し指も同じく挿入して体内を開くと、既にぐずぐずに蕩けてしまっていることがはっきりと分かるようだ。

「もう準備は出来たようだな」

 そう言って指を引き抜くとブラックの腰の下に枕を敷いて高くし、ベッドの上に力なく乗っているだけだった小麦色の脚を肩に担いで、陰茎海綿体に血液を送り込み隆起させる。熱く湿った亀頭をひくつく菊門に宛がえば、黒い瞳は期待と情欲に満ちた視線を相手に向けた。

『わたしよ、来てくれ……』

「ああ、入れるぞ……」

 腰を軽く掴んでぐっと体重をかけ、狭く熱い肉を割って陰茎が侵入を開始する。体内を徐々に暴き、暴かれていく感覚にふたりとも切ない溜め息を漏らしながら、じっくり時間をかけて肉体の距離を縮めていった。
 深くまで繋がった頃には、お互い発汗も凄く全身を濡らしていた。黒い前髪が張り付く額に滲む汗を舐め取ったザマスは、相棒の様子を見ながら控えめに腰を動かして肉を馴染ませようとしている。律動の度に悩ましい声をあげては凛々しい眉をひそめる表情は少しずつ、より蕩けたようになっていく。

『ああ、っ、ううう、気持ちいい、っは……』

 そうしてまるで元からひとつの存在であったかのように馴染んだあかつきには、ブラックはすっかり快楽の虜になってしまっているようだった。熱に浮かされたように挿抜に合わせて呻き、いいところに当たってはナカを締め付けて上体を反らしている。慣らした時の油分に加えザマスが少し多めに先走り液を流していることもあって動きは潤滑で、肉と肉の隙間から漏れ出す淫靡な水音が彼らの耳を犯して興奮を増させた。

「わたしよ、どうされるのが気持ちいい……?」

 愛する片割れを喜ばせようと、ギリギリまで引き抜いて亀頭の段差でぐぷぐぷと肛門を犯したり、カリ首が前立腺を撫でるように中程を擦ったり、あるいはゆっくりだが深い挿入。結腸を刺激するように奥深くで軽く腰を揺らせば、耐えきれないといったような絞り出された喘鳴が奏でられた。数本の指よりも格段に太いもので内部を圧迫され、前立腺を刺激されたペニスはガチガチに勃起してふたりの腹の間で擦れていた。
 ブラックは自分のためにどこまでも尽くしてくれる彼に愛を溢れさせる一方、体を最大限に気遣うことによる一種の焦らしに似た仕打ちに熱を燻らせていた。そして慎重な腰つきに一つの気付きをする。彼にはあまり余裕が無いのだろう、と。

『奥の、深いところがいい……しかしこのままでは、体勢が……』

 太腿に力を込めてザマスの肉体による緩い拘束を解き、肩にかけられた脚を外すと、その体に絡みついたままぐるりと姿勢を反転させ、騎乗位の体勢になった。動いた弾みで抜けてしまった陰茎を掴んで照準を合わせると、その意図を汲んだ銀色の目は驚きながらも嬉しそうに細められる。

『おまえにも、気持ちよくなってほしいからな……っ』

 そう言いながらゆっくり腰を下ろしたブラックは、先程の姿勢よりも深いところまで剛直が突き刺さってくる強烈な快感に脂汗を滲ませ、それでもここまでよく尽くしてくれた相棒のために今一度腰を上げた。更なる深い刺激に慣れるまでの緩慢な動作でする上下運動は、ザマスの喉奥から堪えるような声が漏れたのをきっかけに加速していく。

「ぁふ……いいぞっ……わたしよ……っう……」

 寝そべる相手の頭を腕の中に閉じ込めるようについて見下ろし、その強靭な脚部でもって深く早いピストンを心がけていると、聞こえる吐息はどんどん荒くなっていった。ペニスを持っていかれそうなほどの締め付けに腰が浮いてしまっている。ブラックは自身も快楽に追い詰められていくのを感じながらも、喘ぐ相棒に愛おしさを覚えて口付けた。お互いに必死の形相で舌を絡め、上からも下からもいやらしく激しい水音が奏でられている。

『ンむっ……っう、ふ……』

「んんっ、ふ……あっ……! あ、ううっ……!」

 急にザマスの手がブラックの腰を掴み、深く繋がった状態でがっちりと押さえ付けた。柔軟に絡められていた舌が強く固まるのに始まり、全身の筋肉が一瞬で強ばると同時に精液が放出される。不意打ちで結腸を叩かれたことによりブラックも息を詰まらせたが、すぐに口を離して銀糸を啜り、片割れの絶頂を体で感じて愛しさや小さな優越感を得るのだった。
 止まっていた呼吸を再開したザマスは息が整いきらないうちに離れていった顔を追って軽く口付けると、勃起を維持させたまま軽く体を揺すった。激しい律動が再開される。

『んっ、ンっ、ぁうっ、ア、っは、あ……』

 腰に溜まっていく快楽、ぼやけていく思考、激しい抽迭にともなって中に出された体液が掻き出され、ぶつかる肉の音を更に水っぽくしていく。頭の中が性感でいっぱいになると、ザマスの腰に手をかけて強く引っ張りながら結腸を貫くように深く腰を押し付けた。

『ン……っぅ、あ――――!』

 快楽の濁流が脳を犯す。力の入りすぎた体が痙攣し、全身から汗が滲み、呼吸を忘れ、深い深い絶頂感に支配される。数秒後急に脱力しザマスの肩に顔を埋めた彼は、荒い息を吐いていた。

「まだ勃たせたままだろう……」

『ヒ……! んやっ、あっアぅ……!』

 腹と腹の間から差し込まれた手が軽く竿を滑ると、それだけでブラックは情けなく声を震わせてほとんど色のないザーメンがとろとろと流れる。ぶるぶる震えて出しきると再び肉体を脱力させ、しかし今度はザマスの顎を掴んで優しく口付ける。

「ん……」

 すっかり疲弊した背中に腕を回してがっちりホールドすると、体を横に倒して相棒を労う。萎えていた陰茎は簡単に抜け、狭い直腸から追い出された精液が溢れ出す感覚に震えたブラックは、思わず目の前の細い体に縋って胸に顔を埋めた。

『ザマス、今晩はありがとう……とてもよかった……』

「私の使命と言っただろう? 眠れそうか?」

 そう優しく語りかけたザマスが相手の汗ばんだ腰に手を回して念じれば、ふたりの体はあっという間に清められる。それでも汗が止まらないのか若干しっとりしている体を抱き寄せ、黒髪に口を埋めると動物をあやすのと同じように舌を鳴らした。

『ああ……もう限界だ……愛してるぞ……』

 どこか満足気な、しかし眠そうな声でそう返したきり、ブラックは深い眠りに落ちてしまったようだった。自分の体がすっかり抱き枕にされているのを愛おしいとさえ思ったザマスは、彼が寝返りを打つ時までそのままでいようと目を閉じた。

「私も、愛してるぞ……」



おわり




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