辺りを探索する父に一言断りを入れ、小用を足しに岩陰に隠れ込んだブロリーは視界の隅に何か変わったものを捉え、下を脱ぎかけていた手を止めた。

「ん……?」

 それはこの星ではまだ見たことのない、舌と同じ色をした奇妙な血の塊のようなものであった。岩の隙間から滲み出るようにそれは付着している。不思議に思った彼はそっと指を触れてみる。
 ぐにゅり。それは暖かく湿っており、質感まで舌のようであった。

「……? お父さーーー」

 異様な気配を察し足を踏み出した時には、既に手遅れだった。彼の胴体を掴むようにひも状の肉がどこかから伸び、およそ考えられないほどの力で締め上げたのだ。

「ッがぁ……!!」

 腹部の圧迫故に呼吸を阻害され助けを呼ぶことも出来ず、彼は殆ど何も抵抗出来ないまま、目の前に伸びていた一際大きな口のような形をした肉に呑まれてしまった。どこに潜んでいたのかあまりにも大きなそれは上半身を飲み込み、ぬめる肉壁でぎゅうぎゅうと獲物を締め上げる。彼は搾り出されるように失禁し、呼吸もできないままに唯一自由な脚だけをがむしゃらに暴れさせた。

「っゲホッげほっ、たすけ、おとうさっ」

 狭い肉の中でも器用に動く触手が彼の両腕を後ろ手に強く強く締め上げ、それと同時に頭から胸周りにのみ少しのゆとりができた。肩関節が外されそうな痛みに顔を歪めながらどう抜け出そうか考える。しかしこんな状況は彼にとってまるではじめてのことであり、力も上手く出せない現状では有効な策は何一つ思い浮かばなかった。
 すると先端が吸盤状になっている2本の触手がそっと胸に伸び、そしてその頂点に食らいついた。乳輪をぐるりとなぞるように脈動し、形を確認するようにひねる動きをした。
 その不可解な行動にブロリーが眉を顰めた時、細かな無数の針が胸を刺す痛みを感じた。

「あぎゃあっ!? ぅ、やめ、ろぉ……!」

 断続的に訪れる鋭い痛みに身を捩るがなんの意味もなさない。乳輪付近がぶわっと熱くなるのを感じた彼は、あの虫達のするように毒を注入されているのだと察して首を振った。
 毒液を馴染ませるかのように数度乳輪を揉みこんだ後、今度は触手の先端がさらに窄まって乳頭をピンポイントで締め上げた。先の刺激で勃ち上がっていたそれを捏ねるように細かく振動し、今度は乳輪ごと力任せに吸い付きながら小さな毒針を突き立てる。

「痛っ……! いやだ、やだっ……!」

 ずくりずくりと熱い液体が胸全体に行き通るような感覚、未知の毒液は乳頭の先端から乳腺の残骸を伝って胸部に浸透していき、体の内から膨れていくような違和感と恐怖を彼に与えた。いやいやと首を振って悲鳴をあげても、体の異常は一向に止まらない。網目状に張った触手が胸部を捏ねあげるように揉みしだいていく……

「ううう、う、そんな……」

 派手な水音を立てて先端に食らいついていた触手が外れたと思えば、胸の先端から薄赤色の液体が搾り出されている光景が見えた。何か別の液体で薄まった血なのか、もっと別の液体なのか……どちらにせよ彼にとってはその現象は恐怖でしかない。このまま殺されてしまう、と一層身を強ばらせた時だった。自分の名前を呼ぶ声が、肉の隙間から微かに聞こえた……


ーーー


 呼んでも来る気配のない息子を叱ってやろうと、隠れに行った方向へ探しに向かった時であった。巨岩の向こうに何か得体の知れないものが見え、まさかと思って駆けつけるとそこには奇妙な肉色の植物じみた化け物が鎮座していた。息子は見上げるほどの高さで百合の花のような形をした一際大きな筒状の器官に上半身を丸呑みにされ、脚だけがじたばたと虚空を掻いているようだ。

『ブロリーーーーッ!!!?』

 想定外の事態にすっかり気が動転し駆け寄ろうとしたパラガスのもとへ一本の触手が凄まじい速さで接近し、地面に深い深い線を一つ刻み込む。これ以上近寄ると命の保証をしない、とでも言うように。線の僅か手前で動けなくなってしまった彼は何度も捕らわれた息子の名を叫んだが、その度に脚が少しだけ違う挙動をするだけでそれ以上の変化は起きそうにない。まさかもう消化され始めているのだろうか? 息子が殺されてしまっては復讐が成しえない、何もかもがおしまい……その時腰のポーチが指先に触れた。

『頼む、なんとか耐えてくれよ……ッ!』

 慣れた手つきで取り出したリモコンを起動させる。彼の想像通り、瑞々しい肉の怪物に電撃はかなり有効なようだった。激しい破裂音を音を立てて痙攣するそれ。電撃の根本である息子の脚も突っ張って同じように痙攣していたが、怪物は彼を吐き出してすぐに土中に逃げるように潜って行った。気配を探れなくなったと同時に父は駆け出し、ぐったりと動かない息子を屈んで見下ろす。……首輪の下に少し焦げた痕が見えるようだが、呼吸はしている。
 呑まれていた上半身が全体的に粘液でぬめり赤く腫れてしまっているが、溶けているわけではなさそうだ。触っても問題は無いと判断したパラガスは彼を抱き上げ、全速力で拠点の洞窟へと戻り、卵殻で拵えた寝台に寝かせる。

「おとう……さん……」

『っブロリー、体は無事か?』

 重そうな瞼をようやく開いたといった様子の彼は、それでも体を起こそうとして制止される。それから力なく感謝と無事を伝える言葉だけ残して気絶するように眠ってしまった。
 心配でたまらないと言った様子で、眠る息子の上半身を拭ってやったり、汚れていた衣類を砂で揉み洗ってやったりとしていたが、洞窟の外で嵐が轟々と喚き出したため、その日の活動は終えて自分も寝台に横たわる。と、腕を軽く掴まれたのでギョッとして飛び起きる。
 
「くるしい……たすけて……」

 ブロリーが起き上がって腕にすがりついている。顔は汗ばんで紅潮し、黒い瞳は潤んで揺れ、細く掠れた声が悲痛さを物語っていた。父はその様子に動転し、とにかく横にせねば、と肩を掴んで半ば押し倒すような勢いで彼を寝台に押し戻した。

「おとうさん……たすけて……」

『ど、どうなっているんだ……!?』

 毛布代わりに被せていた毛皮がずり落ち、そこに見えたのは女のそれと見まごう程に膨らんだ胸とぷっくりと赤く腫れた乳輪であった。当の本人は苦しげに体をくねらせながら息を荒らげ、助けを求めてか細い悲鳴をあげている。パラガスは絶句し、息子の体の異常と先の怪物との関係性を回らない頭で考えていたが、よく見ると腫れた乳頭の辺りから液体が滲んで光っているのを認め、そして次に甘酸っぱいような生臭いような香気を感じた。
 ……その匂いが発情したメスのそれに非常に似ていることに気がつくのにそう時間はかからなかった。なにか厄介な毒を入れられたのかもしれないと思い、動転していますぐ叫び逃げ出したい気持ちをなんとか堪えながら手袋を脱ぎ、恐る恐る胸に触れる。

「アっ……!」

 軽く触れただけなのに彼は過剰に反応し、そして少量の白濁色の液体が乳頭から噴出された。驚いた父が飛んでくるそれを避けるように思わず手を突き出した瞬間、

「ぃやああああッ……!!」

 みっともない悲鳴を上げながら、押された方の胸から勢いよく乳白色の液体を射出したのだった。顔にまでかかってしまったパラガスは慌ててそれを拭おうとしたが、そのあまりに魅力的な香りと暖かさに惹かれ、唇に付着したそれを僅かに舐めとってしまった。

「はーっ……はあーっ……おとうさん……え……っ!?」

 一瞬のことだった。背中を仰け反らせて起き上がりかけていたブロリーの体は再び寝台に捻じ伏せられ、そして父親が鬼のような形相で胸にかぶりついていた。乱暴に噛み付かれ、揉みしだかれ、その度に甘い乳汁が迸って渇いた男の喉を潤す。いつもなら簡単に跳ね除けられるはずの父の体重は、全身を走る奇妙な感覚に体力を奪われて何倍も重い石のようになって跳ねる体にのしかかるのだった。

「ひああああっ!? おとうさ、いやだっ!?」

 勝手に震え跳ね回る体でなんとか父親の背中をはたくが、全く力が入らずなんの効果も無い。胸を搾られて液体が噴出る度に体がより熱く昂り、突然の事に恐ろしくてたまらなかった気持ちは段々とぼやけ、その代わり、父に頭を撫でられた遥か幼少の頃のような懐かしく幸せな気持ちが胸に込み上げてくるのだ。

「あうっ、あっ、んっ……!」

 一方パラガスは、この謎の液体に強烈に惹き付けられて逸る気持ちを抑えられず、異常なまでに興奮している自分の体に一種の恐怖を感じながら、勢いよく出てくるそれを舌に受け飲み下すごとに、まるで体が若返り強い力が漲ってくるような感覚に溺れていた。
 これが何なのか、なんて分かるわけがない、知りたくもない、けれど体はどうしようもなくこれを欲し、疼いている。そして上目でちらりと見た息子の顔がとても扇情的に見え、更に自分の下半身が熱を持っていることの異常さに気が付きながらも、さもそれが当たり前のように思考が麻痺していく恐ろしさには気が付けないでいた。

「やっ……あああああーっ!」

 一際大きくブロリーの体が跳ねた時、漸く父は顔を上げ体を離すことができた。背筋を弓なりに反らせ、数度体を大きく震わせ、その度に艶やかな悲鳴にも似た吐息を零す。

「ヒッ……ひ、ひぃっ……! あっ……はあッ……っは……!」

 焦点の合わない虚ろな目で虚空を仰ぎ、全身に力を込めて肩で息をしている彼の股間部分は膨らみ、まるでそこからも母乳を出したかのようにしとどに濡れているのがわかった。その様子をじっと傍観していたパラガスはますます体が熱くなるのを感じ、長らく忘れていた情を欲する耐え難い衝動に頭のどこかで危険信号を発していたが、すぐにその冷静さまで薄れていく。

『ブロリー……下を脱ぎなさい』

「はっ……は……、え……?」

 余韻に痺れた頭で指示の内容をなんとか理解し、言われるがままに震えて力が入らない手で下衣を掴んで下ろす。勃起した陰茎が引っかかって上手く脱げずもたついていたところを、父の手が引きちぎらんばかりの力で無理矢理に脱がせる。そして乱暴な動作で股を開かせると、指に付着したままの液体のぬめりを借りて、窄まりに強引に指を滑らせた。

「あっ! はぐうううっ……!」

 突然の異物感に驚いてその腕に手をかけるブロリーであったが、それよりも驚いていたのは父の方であった。一度も入口として使われたことが無いはずで、硬く閉じられているのが当たり前のそこは、快楽に融けた肉壺の様に熱く柔らかくうねって指を締め付けてきたのだ。それを知覚したと同時に強烈な目眩にも似た情欲と性衝動につき動かされたパラガスは、息子の汗ばんだ片足をしっかと抱えて迷うことなく愚息を突き入れた。

「うわああっ! や、ひぎいいいっ!!」

『うっく……くはあ……っ!』

 挿入の衝撃でわけも分からず吐精したブロリーは未知の感覚に体力と思考力を奪われ、舌と唾液を垂らしながら父に揺さぶられるがままになっていた。獣のように息を荒らげ、体中を巡るあの電撃にも似た、しかしもっと甘く幸せな何かに目を瞑って集中する。いままで一度だってされたことの無い未知の行為に晒されているのに、彼は不思議と嫌悪感や拒否感といったものは一切感じていなかった。愛する父が狂ったように自分の胸にかぶりついていて、それが自分をとても幸せにしてくれることを疑問にも思えず、むしろその背中を抱き寄せて自ら求める。

「あっ、おとうさ、おとうさんっ、ひゃうっ、んあっ、あぁ!」

 乳汁が搾り取られるごとに、硬く勃ち上がった性器が腹で擦れるごとに、熱い肉塊が体内に突き入れられるごとに、体の中で幸せなざわめきが起こって全身が悲鳴をあげて喜ぶ。高くて変な声が勝手に漏れるし、太腿が勝手にブルブル震え、切られた尻尾が疼いて堪らないようだ。
 父は妻との性行為にも似た高揚感に酔いしれ、乳汁を溢れさせる乳首に必死の形相でむしゃぶりつき、合間に零す熱く湿った荒い吐息には理性など欠片も残っていない。自らの男性器を包む強烈な快楽と全身が煮え滾るような激しい興奮に、ただひたすらに腰を振るだけの機械と化していた。

「んあっ、やっ、ああっ、ふぁ、あふっ……あ……!」

『っはあっ……はあっ……出すぞっ……中に出すぞっ……』

 中に出す、という語の意味を全く理解していなかったブロリーは、きっと更にすごいものか来るのだろうと期待して腰を突き出した。数秒後、激しく腰を打ち付けていた父の動きが断続的になり、腹の中になにか熱い感覚。同時に体の中に埋め込まれたそれがぶるぶる震えているのを感じて、まるで父に征服されてしまったように思って歓喜の溜息を零した。

「はふ……あっ……あ……おとうさん……」

 全身は熱く火照り、そして興奮させられたままの性器はいまだ涎を垂らしていたが、動きを止めてしまった愛する父の体重を感じながらその体を抱きしめた。心なしか、いつもより顔色がいい気がする。そしてなにより彼がこんなにも自分に触れて抱きしめるようにしてくれたことが、ブロリーにとっては嬉しくてならないのだった。

『ああ、あ……ブロリー……』

 俯いたまま声を震わせた父は、かと思うといきなり腕を振り払って体を離した。勢いよくブロリーの体内から萎えた男性器が引き抜かれ、同時に体液が排出されていく感覚に背筋をざわめかせる。次の瞬間には衣服を整えるのも半端に、物置の方へ掛けて行ってしまったその背中を見送り、諸々の理由で動けないままの彼は溜息を零しながらくたっと力を抜いて寝台に沈んだ。

『ああ、あの味は、もう忘れられない……』

 ……ずっとまともなものを口に入れていなかったからだろうか、あれは、甘くて美味しいという言葉ではあまりにも足りなすぎた。母乳にも似たそれは回春作用でもあったのか、パラガスは現役時代のように我も忘れて実の息子相手に盛ってしまったのだ。しかしまた、あれが欲しくて堪らないような欲望に駆られる気がする。終わった時にはもう余程彼の胸は元の大きさまで縮んでいたようだったが、もしもう一度でもああなることがあったら、また自分は……
 あの怪物はなんだったのか、これはなにかまずい毒ではないのだろうか、しかし体は熱く、あれを求めている。冷たい岩壁にもたれて頭を冷やそうと努めるパラガスであったが、あの味を思い出す度に体の奥で燻る熱はまだまだ収まりそうにはないのであった。

「あれは、なんだったんだろう……」

 一方若さ故にもう回復してきていたブロリーは、父があんなにおいしそうに舐めていた自分の胸から出た液体に思いを馳せていた。難しいことは分からないが、あの不思議な生き物が自分の体をそうしたのだろう、ということまではわかっていたが、母乳の知識などない彼にはそこから先の、特にさっきの行為に関してはなにも分からない。
 試しに自力で絞り出してみて、もう余程薄くなったそれを指先につけて舐める。……全身を駆け巡った幸せに溜め息を吐き、またあの生き物に会うことを期待している姿がそこにはあった。



おわり




[ 12/20 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]








メインへ戻る

トップに戻る

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -