悪魔未来殺せや 呪いの子供

 廻る時を満たせば 殺し神に捧ぐ






屍魂換鎖








 生まれた時からずっと、俺は村中から忌み嫌われて育った。何だかんだもう11年も生きているのだが、何故俺だけがこんなに嫌われているのか分からなかった。俺の何が悪いのだと思っていた。

―また酷い事されたのか弟者……!?

 傷だらけで帰って来た俺を見て、まるで自分がされたかのように顔を歪めた。彼……兄者だけがこの村で唯一俺を愛してくれた。双子なのだから歳は同じはずなのに、周りのどんな大人よりもよっぽど理知的で大人らしい優しさがあった。

―誰がこんな事したんだ弟者!

 …いつものように声を荒げ、肩を鷲掴みにしてくる。俺は体中の傷の痛みを庇いながらそっとその手を押しのけた。

―ツン達だ。………鉄の杭で何度も殴られた

―そんな奴お兄ちゃんが殺してやる!!

 瞳孔が開ききっている。今にも奴らを喰い殺しでもしそうな勢いで、怒鳴り散らした。その直後、潰さんばかりに俺を抱きしめ武者震いしている。
 兄者はいつもこうだ。俺に危害が加わるとおかしくなってしまう。それでも、唯一俺の為に怒ってくれているから大好きだった。苦笑いしながら抱き返し、答える。

―でも、ツンは幼なじみじゃないか………

―関係ない。弟者を虐める奴は許さん!

 怒り狂う兄者をなんとか宥めてから、ペニサスが薬や食べ物を隠す棚を探し、傷口に塗りたくって包帯を巻いた。
 両親は俺等が産まれた時に殺されたらしく、両親の知り合いの老婆ペニサスが親代わりで育ててくれてはいた。が、どうも気に食わないらしく、6歳になってからは殆どまともに育ててもらえなかった。それどころか虐待の日々だ。兄者にすら沢山の痣が出来る程の。

―そうだ。明日は誕生日だな兄者

―そうか……弟者、

 変な間が怖かった。明日は大好きな誕生日だぞ?だのに何故、そんな…

―俺は弟者を絶対守る

 再び抱き締められた。何か、体温ではない暖かい不思議なものを感じた。突然どうしたと言うのだろう………
 ふと背後から視線を感じて窓を見た。何かの祭りの準備をしているのか、祭壇が広場に出されていた。通りがかる村人達は、抱き締められる俺を窓越しにジロジロ見ながら噂話をしていた。






 夜になり眠って、翌朝。尋常じゃない兄者の悲鳴で目が覚めた。家の外で兄者は大人達に酷い暴力を受けていた。俺は恐怖と混乱でいっぱいだった。

―弟者を殺すなああ!!

 窓の外で兄者はみるみるうちにボロボロになって行き、ついに大人達が家に押し入ってきた。何が何だか、さっぱりわからない。何故大人達は兄者を虐める?まるで殺そうとするかのように…

―早く祭壇へ運ぶんだ!!

―ッあ"あ"!!痛い……!やめッ

 容赦なく殴られ蹴られ、一分も経たないうちに俺は殆ど動けなくなっていた。足が完全に変な方へ折れ曲がっていた。呼吸もし辛いし、頭の中がぐちゃぐちゃになって全く思考が働かなかった。

―悪魔殺しの儀式を行う!!

 弟切草や黒百合が供えられた祭壇に縛り付けられ、目の前に迫るは血錆にまみれた巨大な斧。俺は村人の歓喜の叫びと共に、恐怖に目を瞑った………

―大丈夫か?

―え……?あれ

 次の瞬間俺は、右目を包帯で隠した嫌われ者オサムに介抱されていた。

―良かった。広場の傍で倒れていた時はどうしようかと思ったが………

―きゃあああああ!!!!

 聞きなれた悲鳴が聞こえ、慌てて振り返った。間違いなく、あれは俺の声……


祭壇の上では俺が斧で真っ二つにされていた


―可哀想に……私の弟も、七年前ああやって殺された。……あんなに優しくは無かったが

 そう言えば、俺はこんな…抹茶色の袴なんて着ていなかった。髪もこんなに長く無かったし、青くも無く………

―兄者、私の事を頼ってくれてもいいからね。辛くなったらおいで

 ………どういう事だ。俺は兄者になっている。そんな事は有り得ないはずなのに、今殺されたのは、兄者!!

 どうしようもない絶望と、そして喪失感に襲われた。体中の痛みが思い出したように響き出し、酸欠か貧血のように頭が視界がグラグラと揺らぐ。
 俺は重力に耐えきれず、とオサムに体を預けた。血と膿の、鼻に纏わりつくような嫌な匂いがした。

―今日はもう帰ってお休み、兄者

 そのまま抱きかかえられ、家の…寝室まで運ばれた。広場が異常なまでに騒がしい。俺はぐるぐるした頭をリセットする為布団に入り、眠りについた。





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