9.13
 俺達が独立するのにもってこいだと両親に言われ、このイカレた伯父の遺産に引っ越して来た。兄者はゴミゴミした街からの解放を喜んでいたが、俺は街の方がどんなによかった事かと思う。


9.14
 なんなんだこの館は!部屋数が多いにも程がある!(ここだけ大きく書かれている)
 仕方がないので使う部屋を限定する事にした。キッチン 風呂 トイレ 書斎 物置と掃除が面倒なので寝室は2人で一部屋を使う事にした。どうせ姉妹の為に元から2人一部屋で寝ていたのだし、今更どうでもよかった。ただ兄者のいびきがそれなりにうるさい。


9.17
 「せっかく立派な応接室があるのに使わないのはもったいない」と兄者に言われた。どうしろってんだわざわざこんなとこまでくるバカはいねえよ(少々字が乱れている)


9.20
 書斎にある数多の本を読み漁るだけで何時間も費やしてしまう。流石は俺の伯父、俺達の好みをよく心得ている。一生かけても読み切れない程の本が、どれを読んでも本当に面白いのだ!気に入った。どうせ他に娯楽もないのだし、しばらくは本の虫になろう。


9月22日
 時々視線を感じる 弟者は気付いていないようだが 特にあの階段のところで誰かに見られている気がするんだ 変な病気にでもかかったんだろうか…(兄者が書いたのだろう)


9.26
 今日は久し振りに外に出てみたのだが、遥か地平線にギラリと輝くものがあり、そちらを凝視するとそれは消えてしまった。まさか遠くから監視されている?いや馬鹿な、一体何の為に?


9.29
 書物を漁っていたところ奇妙な紙を見つけた。どうやらこの館の間取り図のようなのだが、どうも一階階段前に地下室へ続く階段があるらしい。隠されているのか?明日にでも兄者と一緒に調べてみる事にする。

9.30
 例の隠し部屋辺りを軽く叩いてみると、確かに空洞があるような音が聞こえた。すると兄者が「視線が強くなった気がする」と叫び、調べるのは止した方がいいとも言った。この時ばかりは俺も何かに見られているような気配を感じた。仕方がないので今日のところは調べるのを止しておこうと思う。
 だがいつかは、この館の秘密を暴いてやる(ここだけインクの染みが広がるほど強く書かれている)


10月4日
 最近眠れない日が続いている それは弟者も同じなようで 真夜中に布団を抜け出してベランダの植物に構ってばかりいるんだ。明日にでも引っ越し後初の手紙を家族に送ろうと思う 遅くても4日で返事が来るはずだ (兄者の字。少し乱れている)


10.10
 家族との通信が途絶えた。手紙の返事はいつまでも届かず、誰に電話しても「お掛けになった番号は現在使用されておりません」の一点張り。兄者は家族に会いに行くと身支度を整え始めた。


10.15
 俺も兄者と一緒に家族を探しに行く事に決めた。今日はゆっくりして英気を養い、明後日ここを発つつもりだ。という訳で当分この館は無人になる。この日記はここにおいておこう。
 またこの日記を手に取れる事を祈って。


12.11(数ページ飛ばしている)
 2ヶ月程あちこち探し回ったのだが、結局は何も得られなかった。家族親戚は一人残らず行方不明。家族の友人知人を訪ねても知らん顔をされ、俺達の友人は俺達の事を覚えてすらいなかった。
 その上館に帰って来た時、この書斎はめちゃくちゃに荒らされていた。本は殆ど床に散らばって酷いものだ。本を蹴飛ばしてこの日記まで辿り着いたが今こうしている通りこれが無事で本当によかった。

 しかし、今度は俺達の身が危ういかもしれない。旅行中は誰の視線も感じず快適に過ごせたらしい兄者だったが、館の付近まで来た途端強い視線を感じたらしい。やはりこの館には何かがある あの地下室の中に何かがいるのかもしれない


12.14
 兄者の精神状態があまりよろしくない。階段前を通るのが怖いらしく、一人ではトイレに行く事も出来なくなってしまった。仕方ないので寝室まで食事を運んで、普段は出来るだけ傍にいてやることにする。だが近いうちに あの地下室について、話を切り出すつもりだ。


12月16日
 地下室を調べに行こうという事についての話 弟者はもう寝てしまったので書き置きとしてここに記しておくが 俺はとにかく早く脅威の正体を知りたい 何かがいるんなら早くその姿を知りたいんだ よく分からないのが一番怖いから もう少しゆっくりして落ち着いてから調べよう(字がすこし震えている)


(1ページ分破れてしまっている)


12.23
 ついに地下室を暴く時が来た。ハンマーで壁の辺りを叩いてみると壁がぼろぼろと音を立てて一斉に崩れ落ち、扉が出現したのだ!薄暗い階段を下り更に扉を開けた先に、古びたデスクと無数の書物。外国語で書かれていたが兄者が少しなら読めるそうなので読んでもらうと、どうも西方の国の機密書類らしい。

 新兵器開発に向けた生体実験を開始
 細胞を確実に崩壊させながら驚異の速度で繁殖を繰り返す
 50匹の健康なマウスの群に1グラム放ったところ1週間で全滅

 それから兄者は突然何かに怯えて寝室に戻ってしまった。俺もこの空間にはよく分からない恐怖を感じ兄者に続いた。一体伯父は何をしていたと言うのだろう


12.24
 あの書類について警察か何かに相談した方がいいと俺は言ったのだが、兄者がそれを反対した。もしあの極秘事項を知ってしまったとなれば、俺達はもう二度と普通の生活には戻れないだろう、と。2人で相談した結果、あの書類は全て灰にする事に決めた。明日の夜、まとめて燃やすつもりだ。


(焦っているのか、数ページに渡って何度も文章を書き直した跡がある。)


12.27
 一昨日兄者が突然高熱を出して倒れた。村へ買い物に行ってから体調不良を訴えだし夕食後に目の前で意識を失ったのだ。近くの病院はどこも既に閉まっていたので俺が看病してやるしかなく、あの書類を燃やす機会を逃してしまった。
 兄者は現在一人で立ち歩けるようにはなったが、時々起きながらにして悪夢にうなされ、精神はとても不安定なようだ。


12.29
 兄者は寝起きを繰り返している。意識がはっきりしている時は横になっていても会話する事が出来るのだが、一度熱で意識が揺らぐともうまともに会話が出来なくなってしまう。高い時は39度後半まで上がるのだが、決まってその後34度まで急激に下がるのだ。兄者の意志で病院には行っていない。俺も看病の合間に色々と調べたが、何の病気か検討もつかない
 はじめて倒れた時、兄者が熱に浮かされながら譫言のように「緑の怪物が頭の中に」と叫んでいたのが、かなり気がかりではあるのだが


1.2
 全く自覚がないまま新年を迎えたが、相変わらず兄者は寝込んだままだ。最近は酷い精神症状も見られる。「皮膚の下を虫が這い回っている」と言うのだ。急に痩せたので血管が変に浮き出て、それを虫だと錯覚したんだと説得したが、苦しみと恐怖に潤んだ目を見ていると、あながち嘘でもないように思えた。


1.3
 今日俺は信じられないものを見た。眠っている兄者の左腕の内側に、明らかに意志を持った何かが皮膚の下を蠢いていたのだ。途端に兄者は目覚め、左腕を押さえて痛がりはじめた。少しするとそれは治まったのだが、あの芋虫のようなシルエットは一体
 兄者は感染症ではなく、寄生虫に取り付かれているのではないか?


1.5
 常に何かに監視されているようで気が気でない。兄者が眠っている間に村の缶詰めや水を買い占め、篭城する事に決めた。相変わらず兄者は何かに怯えている。時々あの寄生虫が姿を覗かせるのだ


(見開きには血で手形の一部が付着。皺が寄っていてインクの擦れた跡もある)


1.9
 遂に兄者が狂ってしまった。皮下の怪物を抉り出す為に、自らナイフで左腕を切り裂いていた!風呂場からの絶叫に驚いて駆けつけると、そこは既に血の海であった。ナイフは手首を貫通し、天井まで血みどろになるという酷い有り様であった。
 これ以上は本当に自害してしまいかねないので、地下室に監禁する事に決めた。腕には包帯と頑丈な鎖を巻き付け、両足も一纏めにした。
 ただひたすらに苦しみと恐怖に叫ぶだけの廃人と化してしまった…俺は何もしてやれない。自分の無力さが何より悔しかった。


1.12
 病状は悪化していくばかりだ。いつも幻覚に怯え、助けを求めてくる 自分が何故縛られているのかすら分かっていないのだろう。だが、そうやって叫んでいる間も肩からはとめどなく血が溢れてくる もう兄者は助からない。俺は看取ってやるしかできないんだ。(字が大分乱れている)


1.14
 兄者の下腹部が少し膨れている。太るようなものは食べさせていないのに
 そして今度は、腹に何かが入っていると訴え始めた。


1.17
 少し出っ張っていただけの腹が、今では妊婦のようになってしまっている 兄者は自分の腹を引き裂いて中のものを引きずり出すよう、泣いて頼んできた。


(1ページ開けて、のりで貼り付けた紙を剥がしたような跡がある。)


1.20
 腹はますます膨らんで、またあの虫のようなものが皮下を這い回るようになった。兄者は静かに泣くのみだった。


(1ページ開けて何か書いてあるらしいのだが、字が乱れすぎて全く判読できない)


1.30
 兄者が死んだ もう暫く立ち直れそうにない 詳細は後日書く


2.24
 兄者の腹ははちきれそうになっていた
 腹はもごもごと不気味に動き緑色の何かが這い回るのが透けて見えた
 呼吸は殆どできていなかった
 兄者は『生まれる』と叫んだ
  頭突きされ俺が尻餅をつくと 兄者の口から緑色のどろどろとした液体が大量に溢れ出した
 兄者はそれを吐きながら『それに触るな』と必死で叫んでいた
 そして『逃げろ』と

 俺は腰が抜けていた 緑色の怪物はゆっくりとこちらに迫ってきた 兄者は動かなくなった 怪物は俺を飲み込もうとやって来た やっとの思いで逃げ出して地下室を閉鎖して(インクが濡れて滲んだ跡が点々とある)


(1ページ開けて、4ケタの数字が3つ記されている)





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