( ・∀・)


 白衣の青年モララーはもう何時間も荷馬車に揺られ続けている。見慣れた町から遠く離れ、見知らぬ町を越え、荒れ果てた野の中で従者と2人きり。
 同業者の恋人と別れるのはすこし辛かったが、この仕事を楽しんでいたモララーにはそれ以上の喜びがあった。伝染病で苦しむ村の調査。リスクがやや大きいが、やりがいだけは計り知れない仕事だ。あと数時間尻と腰を痛めれば村に着くはずだ、と思っていた矢先、荷馬車の揺れが止まった。

( ・∀・)
 あれ? まだ着いてないよな?

( ´∀`)
 これ以上は馬車では進めないモナ。まっすぐ北北東に歩いていけば、5時間後くらいには村に着くモナ

(#・∀・)
 聞いてないぞ!! こんなに荷物があるのに歩いて行けだなんて……!

( ´∀`)


 馬のいななく声が静かに響く。何を言っても無駄だと悟ったモララーは、首を掻き切る真似をしてから荷物を抱えて飛び降りた。風のような速さで地平線に消えていく馬車。唾を吐き捨て、コンパスで北北東を目指し歩きはじめる。

(#・∀・)
 全く……研究者に力仕事をさせるだなんて頭が可笑しいぞ!

 暖かくなりはじめた初夏の荒野。歩いているだけでジリジリと体力を削られ、鞄の荷物をすこしずつ投げ捨てていく。研究道具に手を伸ばしたところ、強い風が吹いたので風下に顔を向ける。すると、やや離れたところにぽつりと建造物が見えた。

彡 ・∀・`
 あんな館、この荒野には似つかわしくないな。どんなトンチキが住んでるんだろう?

 強風に掻き回された髪を整え、疲労も忘れて建造物に歩み寄る。館を囲む赤黒くさびた高い鉄柵、朽ちた門がぽかりと口を開けている。風にたなびく腰まで伸びた雑草、砂埃にまみれた外壁と塗装の剥がれ落ちた扉。見るからに手入れされていない。

( ・∀・)
 廃墟にしては、中はそこそこ綺麗だな……へんだ

 窓を白衣で磨くと、さして暗くない廊下が見えた。ランプが灯っている。完全に無人というわけではなさそうだ。モララーはドアノブに手をかけた。開いている。吸い込まれるようにして中に消えていく白衣。上等な造りの洋館だ。

( ・∀・)
 誰かいませんかー!

 静寂。仕方無く館内を探索することにした彼は、ひとまず廊下を曲がってすぐの扉を開いた。応接室のようだ。四角いローテーブルの周囲には上等そうなソファ。座り心地はよかったが、新品特有の妙な匂いがした。彼はこの匂いが嫌いだった。

( ・∀・)
 誰にも使われていない部屋だ、多分

 誰に言うでもなくそう呟いて、応接室を出た真正面の部屋へ。曇ったガラスがあるだけで、何もない部屋だった。

( ・∀・)
 ははあ……さては広さの割に住人が少ないから、部屋が余りに余ってるんだな

 独り身か、夫婦に違いない。モララーは退室してすぐに扉を無視して廊下を歩きだした。住人が現れるまで歩き回ってみるのもいいだろうと思ったのだ。時折主人を探す声を発し、迷った旅人のように振る舞う。二階に続く階段が見えだしたとき、その反対側の壁に光が反射したのを彼は見逃さなかった。
 懐中電灯で照らしたそこは、太い鎖で幾重にも閉ざされた扉だった。ノブのメッキは剥がれ落ち、過去に何度も開けられたのであろうことが察せられる。3つの4桁ナンバーロックで厳重に施錠された様子は、いままでモララーが研究室で見たどんな禁忌よりも凄まじい雰囲気を醸していた。

(;・∀・)
 一体、どんな秘密がこの中に……

 がさり、

(・∀・;)
 誰かいるのか!!

 反射的に振り向いてあたりを見回す。生体らしきものは何もない。すきま風だろうか。視界の隅で何かが動いた気がしたが、疲れからの飛蚊症だろうと自身を納得させた。

( ・∀・)
 ……こんなものを見つけた以上は、やっぱり住人の顔を見てみたいな。片っ端から調べてやろう

 小走りであの何もない部屋前まで戻ると、調べていなかった部屋を片端から覗いていった。殆どが物置か空き部屋で、埃も少ない生活感の無い空間。ところが回廊を辿っていくと階段に近い部屋程人の居た痕跡が残されていた。

( ・∀・)
 ここは……うげ、血まみれ!

 階段の近くにあった脱衣場らしき部屋、その奥のすりガラスの扉のすきまから血が垂れた跡があった。血は爪で削れる程に乾いており、さび付いた扉を開くと血濡れのバスルーム。天井まで茶色く染まり、惨劇を想像させる材料としては十二分だった。

(;・∀・)
 さては……あの地下室には拷問部屋が?

 ますます住人の御尊顔を拝みたくなったモララーは、ここで殺されたのであろう人間の死に顔を想像しては背筋を粟立たせた。実験段階の薬品モニターとして死んでいく人間を何人も見てきた彼にとって、人の死の恐怖など仕事の楽しさに比べれば大した事はなかったのだ。
 引き返そうとしたところふと何か思いついたらしいモララーはその場にかがみこみ、排水口に流れていく過程で固まった血に"暴いてやる"とだけ爪で削った。彼は振り返ることもなく次の部屋へ向かった。

( ・∀・)
 んー、ここはキッチンかな? 随分と壊されてるけど。

 扉を開けるなり、めちゃくちゃに破壊されたキッチンが目に飛び込んだ。シンクは剥がされてひしゃげ、冷蔵庫も電子レンジも完全に破壊されている。食器の破片がそこら中に飛び散り、歩いて探索すると危なそうだ。

( ・∀・)
 何があったか知らないけど、調べるのはよしておこう。

 隣は食堂だった。しかしやはり使われていないのだろう、長いテーブルと無数のイス、使われた痕跡のない暖炉。天井からぶら下がったシャンデリア。

 それから一階の部屋を全て調べたが、あとはもう何もない部屋のみだった。彼はやや乾いた唇を尖らせ、きしむ階段を一段飛ばしでかけあがる。二階は廊下が極端に広く、部屋数は少ない。はじめに調べた2部屋はやはり空き部屋。

( ・∀・)
 ん、ここは………やっぱり夫婦か

 次に目にしたのは、布団がぐちゃぐちゃに蹴散らされた跡が生々しいシングルベッドが2つ。苦しみのたうち回った人間の姿がたやすく想像できた。匂いをかいでみたが薬品らしい匂いはしない。首を締められたか、気が違って暴れたのだろう。

( ・∀・)
 夫婦にしては、2つとも随分男臭いな……まあそんなこともあるか

 引き裂かれたカーテンから見えるベランダには枯れた鉢植えが無造作に転がっていた。モララーは段々、ここの住人はもう居ないのかもしれないと思いはじめていた。

( ・∀・)
 うーん……空き部屋、空き部屋、物置………ん?この部屋は

 封鎖された扉を除いては、これが最後の部屋。二階のどの部屋よりも広い書斎のようだ。本はみな一様にくたくたになって床に散らばり、本棚には殆ど本が入っていなかった。
 しかしどうしたものか、それらを蹴散らして無理やり道を作ったような跡が書斎の奥まで続いている。モララーは何も考えずにその本の道を辿った。いくつかの本棚を曲がったのち、大きな窓が並ぶ壁際にやけに整ったデスクが見えた。デスクの周りには小物をなぎはらった跡があり、万年筆と黒インク、ぼろぼろの日記帳が丁寧に置かれている。そしてそのかたわらには

( ・∀・)
 男同士で顔が似てる。なんだよ、住んでたのは兄弟だったか

 ピカピカに磨きあげられた写真立ての中に、瓜二つの2人の青年の笑顔。住人の息子かもしれないが、やはり兄弟だけで住んでいるのだろうと推測される。

( ・∀・)
 この流れだとこれに全ての真相が隠されてるんだろうな。血塗られた館の歴史、惨劇の真相、殺人鬼の正体……ああ、早く読んでやろう

 ミステリー小説の類が大好きな彼はその日記帳を手にとり、ゴミを払ってから1ページ目を開いた。ページの隅は崩れ、相当使い込まれている事が察せる。モララーはその流れるような丁寧な字を一つ一つ目で追い、周りの様子が分からなくなるほど集中していた。





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