6
ブーンは慌てて電車を降り、ケーキを買って家族の待つ家へ走った。
今日は愛する妻の、記念すべき誕生日だというのだ。
愛妻家の彼が、それ程に素晴らしい日を祝福しない訳がないだろう。
「ただいまだおー!」
扉を開け、玄関で元気よく第一声を発する。
しかし室内は静まり返っており、普段は声を聞くなりすぐに走ってくる愛らしい子ども達すら来なかった。
「……居ないのかお?」
まさか。
玄関の鍵は開いていたのに。
ブーンは廊下を足早に歩きリビングへ向かった。
その時だった。
「………たす……けて…………」
まさか泥棒でも入ったと言うのだろうか。
ブーンは鞄から小型銃を取り出し、勢いよくドアを開く。
「……たすけて………あなた……………」
彼は言葉を失った。
子ども達が、鋭い刀のようなもので揃って串刺しにされている。
肉がぶちまけられたのであろう天井からは血が滴り落ち、その下ではツンが、言いようのない程ズタズタに引き裂かれて内臓を露出させていた。
「誰が……こんな………ツン!!」
ブーンは思わずツンに駆け寄った。
血溜まりの水音を立てながら走り、殆ど死んでいる妻を抱き締めた。
ーーブーンはふと、妻の額の紋章に気がついた。
術者が遠くから魔力を送り込み、死んでしまわないように加減する為の紋章だ。
あの実験体と同じように。
「………あにじゃ……よ……………」
ツンは譫言のように呟き、動かなくなった。
紋章が消えた。
彼女は死んだのだ。
ブーンは目を見開き、小型銃を今一度握り締めた。
湧き上がる怒りに震え、悲しみに涙し歯を噛み締めていた。
「………当然の報いだ」
どこか聞き覚えのある声に、ブーンは反射的に振り返った。
弟者だ。
思い出すか思い出さないかの時、体に衝撃が走りーー両腕が消え失せた。
「おおおおおッ!!???」
続けて飛び出してきた兄者は、痛みを一時的に感じなくし、生命力を増幅させる呪文をかける。
「1つ聞いて貰おうか………」
弟者はいまにもブーンを殺しそうな彼を抑えると、静かに語りだした。
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