……その時だった。
 あらぬ方向からの視線に気が付き、話を中断して振り返った。

 瓶の中に沈められた大きな眼球が揃ってこちらを見ていた。

('、`;川
 !? あれは、人間の、眼球………

(*´_ゝ`)
 よく気付いたな!

 流石さんはさも嬉しそうに、例の眼球の棚まで歩いていく。
 眼球の瓶の横には一本ずつ指が入った試験管8本が丁寧に並べられ、更にその隣には親指が根元から沈められた瓶。
 一段下には象牙色の粉の入った大きな瓶や赤黒い液体が詰まった酒瓶数本、大きめな長方形の箱に不透明な小瓶………
 その棚には他にも、黄緑色の糸のような物が束ねられていたり、分厚い本が置いてあったり………。

('、`;川
 それ、何なんですか………

( ´_ゝ`)
 おとじゃ。

('、`;川
 ……はい?

(*´_ゝ`)
 これは弟者の左眼球と右眼球。こっちが手の指全部と足の指全部。骨と歯と爪をそれぞれ集めた物がこれで、この瓶はそれぞれ弟者の精液、胃液、血液、膵液、唾液、腸液、脳漿などその他。脂肪、筋組織のサンプル。こっちは内臓1つ1つ。これは弟者の皮膚で、こっちが体毛を部分別に分けた物で、これは弟者の指紋とか写真とかを纏めたアルバム。これが大動脈でこっちが大静脈。そしてこれが……

 流石さんは棚の横に置いてあった、黒い布がかけられた巨大水槽を提示する。
 そしてその布を剥がすと………

(  _ゝ )
 弟者の脳髄と脊髄、神経の束。

('、`;川
 あ……あ……これ………

 薄緑色の液体に浮かべられた、一人分の脳髄と神経の束。その周りを銀色の泡が蝶のように舞っている………
 樹木のように複雑に絡み合う神経が、何とも言えぬ芸術を織りなしていた。
 流石さんはそれに優しく抱き締めるように纏わりつき、さも愛おしそうにガラスに何度も口付けた。

(  _ゝ )
 全部傷付けないように取り出すのが本当に大変だった。人体の美は俺の手によって汚される事なく現れた。完全なる器が完成するまでは、弟者はこうやって生き続ける。

('、` 川
 ……そんなのって………間違ってませんか?こんな姿で生かされ続けるなんて、悲しすぎます。

( ´_ゝ`)
 勿論弟者の合意の上やっている事だ。先程ハムスターの実験をしたが、俺の言うようにこの液体がハムスターであると言えるなら、人間はどこまで本人なら本人であり続けられるのか…その研究を弟者とやっているに過ぎんのだ。
 だから俺は弟者を極限までバラして、人間はどこまで弟者であればそれが弟者と言えるのかを確かめようとしている。弟者の体のパーツに他人の脳髄と神経を持った人間を弟者と言えるのか。他人の体のパーツに弟者の脳髄と神経を持った人間を弟者と言えるのか………
 もしこの実験でその両方が他人であり弟者であるという結果が出たのであらば、両方が完全なる弟者であるという結果が出たのであらば、どちらかが完全な弟者であるという結果が出たのであらば。俺等は互いの体のパーツと神経を他人と交換しあって、永遠に俺等のまま生き続ける事ができる。"永遠の命"は最早、俺等の手の中にあるのだ。俺等は永遠に若々しくあり続け、永遠に愛しあえる。そんな素晴らしい研究をしているのだ……………

(-、-;川
 ………………

 永遠の命に対する執着と、歪んだ愛。
 初め私の入室を拒んだものはきっとこれだったのだろう。
 途方も無く強大で誰もが望んだ事………人間は何の為に永遠の命を望むのか。果たしてそこに幸せはあるのか………………

(-、- 川
 ………

('、`*川
 流石さん、

 流石さんは目だけをこちらに向けた。
 新しい研究課題を見つけた私は、果てしなく高い望みを持つ兄弟に微笑む。

('、`*川
 また来てもいいですか?出来れば毎日

 流石さんにはこの台詞はどう聞こえただろうか?そんな事はどうでもいい。
 私は目の前の観察対象の頭が上下に動いたのを認め、そっとほくそ笑んだ。


 いい実験台を見つけた………





おわり


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