06
結局「ぬぁああんでこんなおもしゲホッ初期段階でくまに報告しなかったのかなとぉぉぉどろきくぅぅうううんっ!!?」「貴様内科じゃないだろう」という寝間着に白衣をひっかけた主治医とのやり取りの末、燈矢と冷奈は眠ったまま診察を受け、その日は無事に帰宅した。
勿論、二人離れることなく。
(「その方がおもしろウェホンッ安定していますですからね!」「今面白いと言ったか?」「言ってない言ってない辛うじて言ってない」)
そうして、現在。
安静にしていれば一日二日で治るただの風邪と言われた燈矢と冷奈は、順調に回復の道を辿っていた。この通りべったりくっ付き合いながら。
冷はそっと、冷奈の額にかかる髪を払う。先の戦い、勝敗の決め手は「お薬飲まないと病院で注射打ってもらうしかないね」という冷の脅し文句だった。
途端双子は怯えと驚愕の声を上げ、冷奈はしょんぼり粉薬を手に取ったのだ。「れなちゃ、ゼリーの方がおいしいよ?お薬苦いよね?」どうしてだか、慌てたように燈矢が薬を飲もうとするその口にスプーンを突っ込もうとしていたけれど。
まだ本調子じゃないのかしら。冷は小首を傾げた。無論、息子の乱心を止めた後で。
「あのさ、れなちゃんねむいって」
「お薬効いてきたね。でも燈矢も眠そうだよ?」
「うん……」
その後薬の効き始めた双子がふにゃふにゃ目を擦り始めた頃、日干ししたふかふかの布団を準備すれば何も言わずとも二人は大人しく布団に潜った。
「もう勝手に盗らないでね」
「取ってないわよ」
ジトっとした燈矢の瞳が目蓋に覆われたのが数時間前。様子を見に冷が戻ってみれば、そこには穏やかな寝息が二つだけ並んでいた。
いつも思うのだけど、この子達寝返りとかどうやっているのかな。
そう思わずにはいられないほど、いつだって燈矢はお気に入りのぬいぐるみみたいに冷奈を抱き締めているし、冷奈はいつだってお気に入りの抱き枕みたいに燈矢に抱き着いて眠っている。
不思議な寝相の双子へとそれぞれ手を添えれば、蝕む『
冷熱』はもうすっかり引いているようで。冷は漸く安堵の息を吐いた。
「お揃いの夢でも見ているの?」
聞いたところで勿論夢の中の双子は答えないけれど。安堵ついでにあんまりにも似たような表情で眠る二人に囁いた。
お揃いの夢、なんて。非現実的と、彼らの父親は言うだろうか。
それでも同じタイミングでふにゃりと緩んだ口元が、冷にはそれが答えのような気がした。
「おやすみ。燈矢、冷奈」
幸せな夢が見れますように。
起こさないようそっと二人の世界を閉じて、冷は小さく小さくそう願った。
幸せな。……幸せな。
どうか───幸せに。
そう、願った。
───願うことしか、できないのだ。