04

「と、くん、」
「だめ、でしょ……?勝手に…っはぁ、おれから、離れ、ちゃ、」

擽ったいなと思ったら、それはすぐ隣にバタンと倒れた燈矢の熱い吐息だった。
渡り廊下にふたりぼっち。
シーツごと冷奈を手繰り寄せた燈矢の顔は、その髪と同じ、赤色で。

本当に、来てくれた。燈矢が逢いに、来てくれた。目の前に存在する燈矢は紛うことなき、現実で。
その事実に、冷奈はドキドキして。嬉しくなって。そうして身体にぞわぞわが這い上がった。

まだ冷奈も燈矢も風邪は治っていないのに、そんな燈矢と会ってしまったこと。それはとても、イケないこと。イケないことはゾクゾクする。燈矢の唇が、近付いて。「ん、」パキン。涙が食べられて、しまう音。

ごめんね。冷奈が乗せる。もう声を出すのも億劫で、小さな小さな想いだけで。

「……ん、もういーよ。離れないんなら、もういーよ」

優しい声にぎゅっとぎゅっと抱き締められる。ずっと求めていた、燈矢の熱。じんわり溶ける、凍った身体。傍に居られなかった空白を埋めるよう、冷奈もぎゅうとぎゅうと燈矢に抱き付いた。

「、ゃくん、」
「……んー?」

どくりどくり、速い心音。熱い身体の脈打つ音。
なんだかいつもより熱っぽい声に、冷奈は「あのね、」とゆうくり近付いた。

「とやくん、あついね。なんかね、あついね」
「うんあつい。……いや?」
「んーんっ。すきっ」
「! へへっそっかぁ」

おれもね、すき。れなちゃんね、すきっ。

おでことおでこをコツンとして、互いの温度を交換する。もうこれ以上無いほどぴったりぴったりくっ付いて、隙間を埋めて、息を吐いた。
炎の息と氷の息。対の吐息がかかることさえ、なんだかとても気持ち良い。「じゃあさぁ」熱っぽい瞳から涙が一つ零れ落ちる。流れる滴をぼぅと見詰めて、冷奈はうんと頷いた。

「じゃあ、ふたり一緒だとさぁ、ちょうどいいよね」
「……?ちょー、ど?」
「一個のさぁ、たまごだったんでしょ?おれたち。きっとさ、生まれるまえはさっ、ずっとこんなふうだったんだよ!」

こんな風、と。燈矢がおでこをぐりぐりするから、冷奈はふぁあと声を上げる。

こんな風。それはまだ冷奈と燈矢がたまごだった時のこと。冷奈は全然覚えていないけど、狭いひとつのたまごの中、きっと二人で寄り添って……。
そんな時のことを想ったら冷奈の心はきゅうとした。うっとり蕩ける燈矢の熱と、素敵な素敵なキラキラの言葉。
それだけで、冷奈にはどんな薬よりも特別な効果がありそうだった。

「すごい、とーやくん、すごいねっ!きっとね、えっと、きっと、きっとねっ!」
「あはは。れなちゃんいますっごく眠いでしょ?」

全く纏まりのない冷奈の言葉に燈矢が笑う。「んん、ねむいの」「おれも眠いや」くふくふ二人笑い合って、そっと揃いの瞳を閉じた。

燈矢のぬくもりが冷奈の身体を包んでくれる。氷は炎に弱いから。
だから、ふと。夢の狭間で。冷奈はぽつり、呟いた。

「───」

「、───……、───、」

ふわり、暗転。






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