燈矢

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※√雄英生


可哀想に大変多感な時期(夏雄誕生前か焦凍誕生前)に事故って両親の性行為を見てしまった燈矢……。
勿論親のアレソレとかで気まずいとかもあるんだけど、何よりこの家で『子作り』をするというコトの重大性を把握してしまってるが故にオーバーキルダメージ。
この事件以降、トラウマになってしまってそういう行為に酷い吐き気と嫌悪感しか湧かなくなる。

そんな燈矢だったけど、雄英に入学後暫くしてある変化が生まれる。
どうもある生徒に関わったら身体がおかしくなるのだ。
目が合えば全力疾走でもしたかのように心臓が煩くなるし、だけど傍に居たら心が落ち着いていく。他の奴、特に男と話しているのを目にすればふつふつと形容し難い嫌な感情が重いヘドロのように湧いてきて、でもそのヘドロもそいつが話しかけて来たら途端に宙に浮いてどこかに消えてしまう。なんだこれ。

時間が経つにつれて悪化していくから、とうとう本人のななこを呼び出して相談する。
なぜか徐々に顔を赤くさせるななこに「そういう個性なら解除して欲しい」と切実に締めくくった燈矢だけど、たっぷりの時間をかけて「それ……その……こ…こ、い、とかじゃ……ないでしょうか……」って恥ずかしそうに告げるななこにポカンとしてしまう。こい。濃い。恋……?

父との軋轢が生まれて以降、周りを見る余裕なんて無かった少年の遅咲きの初恋。自覚すらしてなかった感情をよりにもよって恋してる子にそれを指摘されて、陶器のように白い肌を煙を出さんばかりに赤く染め上げて俯いてしまう。そっか、俺いま、恋、してるんだ……。

すったもんだの末、無事交際を始める二人。恋を自覚する前と後では見える世界が全然違う。前までは馬鹿馬鹿しいと鼻で嗤ってた遊園地や水族館も、ななことのデートならたちまち楽園に様変わりする。

「(恋って凄いな)」

恐らく両親はして来なかっただろう『普通の』恋人としての生活をななこの隣で噛み締める燈矢。


これが普通。普通なんだ。野望だ金だの汚い関係じゃない。恋をして、お互いがお互いを好きになって、愛し合うようになって、そんな二人が結婚する。これが世間一般の普通なんだ。


その汚い関係があったからこそ自分が産まれたことは理解してるけど、家庭環境のアレ具合から結婚観は実家を反面教師にしてる。トラウマもあってある種潔癖とも言う。

初恋であたふたしながらも恋を愛に育てていく。燈矢としては上手く行ってるつもりだし、ゆくゆくはななこちゃんと結婚したいなって思うくらいにはななこのことを愛してる。


「で、轟は?ななことはもうヤッたの?」
「、は?」


しかし世間の常識的に上手く行っていないことを知ってしまう。
クラスメイトとの猥談なんていつもは適当に笑って流すけど、この場に彼女の名前まで出されて固まってしまう。
その場はなんとか誤魔化すけどとんでもない事実に身体は正直に震えて顔は青ざめ心は絶望の海に浸かる。

『普通の』恋人もアレはしなければいけない行為。
寧ろしなければおかしいまである。

無意識に目を逸らし続けていた現実に直面する燈矢だけど、交際からいつまで経ってもお手々繋ぐ程度で、キスだってなんとか頑張って触れる程度のレベル。その先の先に位置する行為なんて、いくらななこが相手でも想像するのも恐ろしい。

でもななこのことは本当に好きだし世間一般の恋人は普通にそういう行為もするからって吐き気抑えながら勉強する。自分もななこも交際はお互いが初めてなので当然そういう行為もお互いが初めて。だから勉強。でもダウン。ななこをそういう目で見れない。でも好き。ななこを誰かに盗られるなんて冗談じゃない。結婚だってしたい。でもあの行為だけは出来ない。吐く。情緒不安定。

そんな明らかに様子のおかしい燈矢に気付いてどうしたのか尋ねるななこ。元気がないとかもうそういうレベルじゃない。なんなら避けられてる気さえする。「なんでもないよ」と力なく首を振る燈矢に根気強く粘ると観念したようにぽつぽつ語ってくれる。

流石に原因はぼかしつつも誰にも言ったことない話を、静かに聞いてくれるななこ。だんだんヒートアップして、最近漸く落ち着いてきたのに昂って涙さえぼろぼろ零して吐露する燈矢…。


「ごめんね、ごめん、信じて欲しい、俺すきなんだ、ななこちゃんのこと、世界でいちばん、この気持ちだけは絶対だれにも負けないから、だから…すてないで」


恥も外聞も投げ捨ててななこに泣き縋る燈矢。
そうして実は全く進展しない燈矢との関係に不安を覚えていたななこ。

ななことしては燈矢に嫌われたかもしれないとまで考えていたので、取り敢えずそういうわけではないことには一安心。
ただ燈矢の状態や強迫観念地味た考えはなんとかしなきゃと、「燈矢くんが嫌なことを無理してまでするなら、私はそんな『普通』は嫌だよ」って吐くまで勉強していたことを辞めさせる。

「そもそも『普通』の恋人ってなんだろう。色んな恋人関係の平均値?中央値?」
「、?」
「…どっちにしてもね、全員が全員おんなじ様な関係って、絶対無いと思うんだよね。だからみんながみんな『普通』に合わせる必要は無いし、私たちも私たちの関係を築いていければなと、思うわけでして…」
「……俺、たちの?」
「うん。だからね燈矢くん、」


「燈矢くんがされたら嫌なこと、したくないこと。逆にしてほしいこと、したいこと。私と一緒に、探してみない?」


その後、ななこの言葉通り一つ一つ確かめていく二人。

アセクシャルな燈矢と二人の歩幅でゆっくり進んでいく二人のお話。


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