23

───
──



「うんっ!」


ふんわりはにかむ男の子に吊られるよう、女の子もふにゃり笑って頷きます。

よかった、なきやんで。なんて。潤む瞳をそのままに、それでも笑顔の男の子へ、女の子は安堵を覚えました。

だって、いつもしっかりしている男の子が、あんなにも泣いてしまうなんて。そんなこと、女の子にとって初めてのことだったので。

おくちのちゅうをされたことよりも、大好きな男の子に「れなちゃんにきらわれた!」なんて、酷い勘違いで泣かれたことの方が、女の子にとってはよっぽどよっぽど重大だったのです。

だけどこれで安心です。
男の子はぴたりと泣き止みましたし、悲しい悲しいと訴えてきていた感情も、期待と喜色で染まっています。

あんまりな事態にどこかへ吹っ飛んでいた眠気も、ふわりふわりと戻ってきて。でももう大丈夫。だって『おくちのちゅうじけん』はもう解決したのです。

あとは男の子のお誘い通り、女の子は男の子とけっこんをすれば良いだけなのです。

そうしたら、男の子は女の子とおくちのちゅうが出来るようになりますし、女の子も男の子の悲しい顔を見なくてよくなります。

そう、けっこん。
けっこんさえすれば、二人ともがしあわせに───……、


「……………………あれ?」

「待て───待つんだ燈矢ッ」


んー?と女の子がゆうくり首を傾げるのと、固まっていたお父さんが片手で自分の顔を覆ったのは同じタイミングでした。

お父さんはなんだか真剣な顔で男の子とお話をしていますが、女の子はうんうんと重い頭を振り絞っていて、それどころではありません。

うーん、うーん。女の子はたくさん、たくさん、頭を使いました。

じっくりたっぷり、時間を掛けて。そうして女の子は漸く「あっ!」と大切なことを思い出しました。


『 兄妹は結婚しちゃいけないの 』

「兄弟は結婚できない。法律でそう決まっている。分かるな?」


大好きなママの言葉と、丁度のタイミングで聞こえたお父さんの言葉に、女の子はそうだった、と頷きます。

そう、そうなのです。
男の子と女の子はたとえ『とくべつ』で『うんめい』な双子でも、そもそもきょうだいなのですから、けっこんは出来ないのです。

だからきょーだいはおくちのちゅうができないんだと、女の子は漸く、その意味を知りました。


…………と、いうことは、です。

やっぱり男の子と女の子は、おくちのちゅうは、できないのです。


「とーやくん……とーやくんとれな、けっこんできないからね……だから、おくちのちゅうも…………、」


お父さんの言葉に、とてもとてもショックを受けていそうな男の子へ、それでも女の子は申し訳なさそうに「ごめんなさい」をしました。


だって、仕方ないのです。


女の子だって男の子のことが大好きですが、それでも男の子とはけっこんできないのです。

おくちのちゅうは、けっこんする人としかしてはいけない、とてもとても大切なものなのですから。


お父さんからは正論を。女の子からは「ごめんなさい」を。

折角妙案を思いついたというのに、また二人に「だめ」と言われて、男の子の束の間の笑顔もくしゃりと曇ってしまいました。

下へ下へと落とした視線が、また涙に濡れてキラキラ溢れて…………、


しかしすぐに、キッと強い意思を持った瞳が、お父さんを見上げます。

未だ繋いだままの女の子の手をクン、と引き寄せた男の子は、「わっ」と声を上げる女の子を抱き締めて。

そのまま男の子はお父さんに向かって、文字通り、吠えました。


「おとーさんとおかーさんはできんのに、おれとれなちゃんはできないのッ!?なんで!?おれたち、おとーさんたちよりもすきどうしなのにッ!?なんでッ!!?」

「おと、むぅ……、」


……こうして。

癇癪を起こす男の子と、すぐ近くの大声にくるくる目を回す女の子。

そうして上手いこと説得のできなかったお父さんが、お買い物に出掛けているお母さんに助けを求めて、なんとか二人がかりで『ふたりはけっこんできません』『ふたりはおくちのちゅうをしてはいけません』と男の子に言い聞かせて。

その日も平和な日常を送るのでした。



めでたし、めでたし。




──
───





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -