02
「──れなちゃん、れなちゃん、」
声が、きこえた。
たいくつで、あったかいまぼろしから、ゆうっくり引きあげられそうになる。
それがなんだか、とってもいやで。まだもうすこしだけ、そこにいたくて。イヤイヤって、頭をよこにふった。
クスクス。こんどは、わらい声。
「まだねむいの?それともさむい?でも、そろそろ起きないと、お父さんうるさいからさ」
ううん。さむくないよ。
だって、きのうおかあさんにおねがいした湯たんぽのおかげで、ふとんのなかはポカポカであったかいから。
ぎゅっと湯たんぽにすりよると、湯たんぽもぎゅっと抱きしめてくれた。ほらね。すっごく、あったかい。
……?
湯たんぽって、抱きしめてくれるっけ……。
じゃあ、このあったかいのは、なんだろう?
そぅっとまぶたを開けるとすぐちかくのまあるいあおが、ふんわりにっこりわらっていて。ぴょこん、ってとび出たまっかなねぐせをみつけて、わたしもゆっくりわらった。
とーやくんだ!
おはよ、とーやくんっ
おはよう、れなちゃん。
……あれ、?
「……、……?」
「なんでおれがいるかって?……覚えてないの?昨日の夜、ひとりは寒くて寂しいっておれに泣きついて、それで…ウン、まぁだからおれがれなちゃんの布団にいるんだよ。そんなことよりひっどいよなァれなちゃんは。おれが居るのに、あんなのに頼ろうとするなんて」
おれ、傷ついちゃった。
そう少しだけすねたような、そんなやさしい声にもぞもぞとあたりを見まわす。きのうしっかり抱きしめていっしょにねむっていたはずの湯たんぽが、さみしそうにふすまのちかくにころがっていて。
泣いてた。
泣いてた?
そうだっけ……。
でも、ずっとそばにいたあったかいとーやくんと、急にはなされて。さみしくて。かなしくて。さむかったのは、おぼえてる。
うんうん、重いあたまをかかえて、がんばってきのうのことを思いかえすけど、やっぱり泣いたことはおぼえていなかった。
じゃあ、つまり……、おぼえてないけど、ねぼけて、わんわん泣いて、泣いて。それで……湯たんぽをすてて、代わりにとーやくんをひきずりこんで。起こされるまでぐっすりねむっていた……という、こと。
たいへんだ……!
とってもとってももうしわけない。「ごめんね、」そっとこぼすとぎゅぅっとうでの力がつよくなった。
あったかい。
「いいよ。でもやっぱりいつも通り、布団は一緒にしよっか。寒いもんな」
「……でも、」
「大丈夫。おれはちょっと暑いくらいだから調度良いんだ。それに、夏になったら今度はおれが助かるし。ほら、これでお互い様。だから寝る時は二人一緒。ね?」
やくそく、ってからめられたこゆびを見ると、なんだか身体がぽかぽかあたたかくなった。
やさしくて、わたしのわがままも笑ってゆるしてくれて、うごけないわたしを、いつもいつも、ひっぱってくれる。
そんな、じまんの片われ。
おにいちゃんにすこしだけにてる、ひとつのたまごの共有者。
「おとうさんのさくせん、しっぱいしちゃったね」
「おれは最初から反対だったんだ」
もう、おきないと。
ぼんやりとかすむ重いあたまを、なんとかおこして。
つめたい朝からにげるように、あったかい片われの手をとった。
ゆぅっくりとひっぱられて、まぼろしからも離される。
セピア色の、なんてことない、ただのきおく。
もうにどと触れることのできない、そんな。