18

「ごめんなさい」


氷と水とが絡まって、そのままぽつん、落ちていく。

いくつもいくつも生み出して、畳に落ちて、解けていく。


「ごめんなさい」


死にたかった。アレが産まれてしまう前に。

お父さんの言葉を聞いて、それでもまだわたしを捨てなかったきみの優しさと誤認に付け込んで。


【轟燈矢】が産まれる前に死んでしまえば、わたしはあの子に否定されずに、地獄の底に逝けるからと。


わたしによく似た冷たい声が、耳元でずっと囁くから、


「ごめんなさい」


でもアレはわたしが死ぬ前に産まれてしまった。
きみももう、真実を否定できなくなってしまって、それで、そうしたら。アレに向けられた憎悪が、今度はわたしに向けられるのは、時間の問題で。

だから、だからその前に、直接捨てられる前に、はやく、はやく……死にたかった。


「ごめんなさい」


でも間に合わなかった。

それどころか、下に下に押し殺していた自己中心的な醜い感情まで吐き出して。


「ごめんなさい」


死んだところで役にも立てず、生まれた罪の償いにもならない。


「ごめんなさい」


じゃあ生きろって、言うの?


大好きなきみに穢い本性を知られた世界で。

大好きなきみに嫌われた世界で。

大好きなきみに、捨てられた世界で。


地獄みたいなこの世界で、押し潰されそうな罪悪感だけを抱えて、それでも生きていかなきゃいけないの?


「ごめんなさい」


無理だよ。


「ごめんなさい」


そんなの無理だ。


「ごめんなさい」


許してください。


「ごめんなさい」


今度は絶対、絶対に来世なんて望まないから。


「ごめんなさい」


もう二度ときみの、誰かの人生を邪魔しないように、地獄で罪を償い続けるから。


「ごめんなさい」


だから、もう、


「しなせて、くだ、さ、……っ」



───不意の場違いな感触に思わず瞳を見開くと、視界一杯に大好きな蒼が広がっていて、


その言葉が最後まで音になることは、なかった。






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