03

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むかしむかし、あるところに。

男の子と女の子の双子がいました。

男の子はお父さんに褒められるほど、とてもとてもしっかり者。

対して、女の子はいつもいつもお寝坊さんで、ほんの少し起きたとしても、ぴくりとひとつ笑わない、とてもとてもぼんやりさんです。

しっかり者の男の子は、そんなぼんやりな女の子の面倒を、いつもいつも見ていました。


「もぉ!れなちゃんおきてよぉ!」


男の子にとって一等大変なのは、お寝坊さんを起こすことです。

ゆさぶってもたたいても、女の子はうんともすんとも言わず、すぅすぅと、おだやかな寝息を立てるだけです。

まいにちまいにち繰り返される重労働に、男の子は辟易としていました。


なにかいいほうほうはないのかな?


男の子は、うんうん、あたまをかかえて、一生懸命考えました。


「……あっ!そうだ!」


考えて、考えて。男の子はあることを思い出しました。

いつか、お母さんに読んでもらった、【むかし、あるところに】なんて出だしで始まる、とある二つのおとぎ話です。

男の子は思いついた妙案に、しかたないなぁ、なんてため息を吐いて。そうしてそのまま女の子を閉じ込めるよう、小さなかんばせの両隣へと手を置きました。

女の子はやっぱり、すぅすぅと、未だ夢の中の住人です。

男の子はそんな女の子の顏に近付いて───ちゅっ、とその柔らかな唇に、自身の唇を重ねました。


ひとつ、ふたつ。そうして、みっつ。


男の子は女の子から離れ、あれ?と首をかしげます。

女の子はなにをされたかも気付かずに、ただただ、その瞳を閉ざしたままでした。


「れなちゃん?なんでおきないの?」


男の子はふしぎでふしぎで仕方ありませんでした。

だって、死んでしまった白い雪肌のお姫様も、100年眠り続けたお姫様も。みーんな、キスで目を覚ましたのに。


男の子も同じようにキスをしたのに。どうして女の子は起きないのでしょう?


男の子はもう一度だけ、女の子に近付きます。

触れれば溶けてしまいそうな、白く美しい雪の肌。

そんなかんばせに一際目立つ、小さくかわいい桜の花弁。

今度こそ起きますように、と。男の子はしっかり狙いを定めて、優しくゆっくり食みました。


ひとつ、ふたつ。そうして、みっつ。


触れる唇をそのままに、男の子はそうっと目を開きます。

しかし、やっぱり。女の子の長い睫毛は、待てど暮らせど動きません。

ふに、と唇を重ね合わせながら、男の子はまた、うんうん、と一生懸命考えました。


「…………」


そうして、徐に、なぁんとなく。

女の子のおだやかな、すぅすぅという寝息を立てている、すーっと通ったかわいい鼻を、男の子はキュッと指で摘んでみました。


ひとつ、ふたつ。そうして…………、


「……、…っ……、!?、?!」


女の子はびっくりしたように、その瞳をパッと開きました。

いつもねむたげな、すぐにくっついてしまいそうな瞳が、まあるくまあるく開いているもので。

すぐ近くで見ていた男の子も、少しびっくりしてしまい、女の子からパッと少しだけ距離を離しました。


「っ、ぷはっ……、ゲホッ、」
「れなちゃん、おきた?」


げほっげほっ、と咳き込む女の子は、男の子の質問に答えません。

でも、男の子にとってはそれはいつものことなので、女の子の瞳がパッチリ開いたことを確認すると、にっこりにっこり笑いました。


「おかーさーん!れなちゃんおきたよー!」
「ほんとー?すぐ行くねー!」


男の子は別の部屋で妹の世話に忙しいお母さんへ声だけで報告し、女の子に目を向けます。

女の子はまだ何が起こったのか分からず、ぼうっと光の差さない瞳をゆうくりゆうくり瞬かせています。


またねちゃだめだよ、と男の子は女の子に注意して。

そうして、そっと自分の唇に触れました。


女の子の唇はとても柔らかく、そうしてとても、甘くて甘くて……。

次からもこれで女の子を起こそうと、男の子はふんわり目尻を緩めました。


やっぱり。眠っている女という生き物は、キスで目覚めさせることができるのだから、と。



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