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真実を知ったその日から暫く。
わたしはただ泣いて、泣いて。
只管に、謝った。

もうどうしたらいいか、分からなかった。
思いつきもしなかったこの大き過ぎる罪を前に、わたしは謝るしか能のない薄鈍に成り下がった。

みっともなく、見苦しく。あの子の胸元に縋り付いて。

毎日毎日飽きもしないで、泣いて、泣いて、謝って……。


ふと一人、鏡を覗いた私は───ゾッとした。


そこに居たのは、紅い髪のわたしだった。

まばらに残る母親の白はもう三分の一すら残っていない。取って代わるように染まっていく紅が明示するのは、またわたしが罪を犯したという証拠。

鏡の中のわたしが口元に手を当てるのを他人事のように眺めて。だけど現実の身体はすぐにトイレまで駆けて行き、饐えた胃液をぶちまけた。垂れ下がる紅が視界に入って、醜い感情のままに訳の分からない音を喚き散らす。

だって紅は……この紅は……、あの子の、ものだったから。
大好きな父親とお揃いの、真っ赤な炎の髪の色。

なのにわたしはそれすら奪ってしまった。

あの子の髪はもう白ばっかり。
だけどわたしの髪は紅ばっかり。

奪ってる。今正に、あの子から、奪ってる。

ああ、そうだ、……これも、わたしが期待したから、こんな、ことに……!

あの子の髪が白くなりはじめた時、わたし、わたしは……っお揃いになったらすごく嬉しい、なんて……そんな、そんな…残酷な、こと……っ!


どうして、どうしてわたしはいつも……!いつもいつも、馬鹿なことばっかり───ッ!


それからどれくらい経ったことだろう。分かるのは吐き出すものが無くなって、そこに赫い血液が混ざった頃のこと。

立ち上がる気力も湧かず、ただぼんやり壁に凭れて吐き出した汚物を眺めていた。


汚い。
気持ち悪い。
早く流して始末しろ。


頭では分かっていたけれど、なぜだかそれから目が離せなかった。
離してはいけないと思った。

愚鈍な頭が緩慢に動き、だらだらと思考を継続する。
どれだけ時間を費やしたか、それでも弾き出した答えに「ああ、そうか」と納得した。


天啓を得た、気分だった。


稀に見る明晰な思考に、暗雲の心が晴れ渡っていく。
漸く、私がなにをすれば良いのかハッキリ理解出来て、ここ最近動く気配の無かった唇の端すら上を向いた。

なんとか立ち上がって、レバーを引いて、渦と共に奥へ吸い込まれ処理される『わたし』を見送って。
穢れた唇で「がんばろう」と、呟いた。


───コイツ、なんでまだ生きてるんだろって思ったら、もう、だめだった。


「──く、しないと、」


雲が徐々に晴れていく。
思考は明晰に、計画は綿密に。
奪ったことが罪と言うなら、奪ったもので精算しろ。


産まれたことが罪と言うのなら、その罰は───、


「『次』が産まれる……その前に……、」


揺らめく水面は見た目だけは何事もなかったように、それでも私にはキラキラ透明に輝いて見えたから。


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