05

「1年A組の皆さん、ご入学おめでとうございます」

しんぞうが、どきどきする。身体からバクン、バクンって、音がきこえちゃうんじゃないかなってくらい、すごくすごく、緊張する。

きょろきょろ辺りをみまわせば、同じくらいの歳の子たちが、たくさん座っていて。テレビやまんがでしか見れなかった、ずっとずっとあこがれていた、学校の、けしき。

そこに、自分がいるんだって。そう思うと、なんだか、ふしぎで。

うれしいって気持ちと、どうしようって気持ちで、ぐちゃぐちゃになっちゃう。とーやくんからも、なんだかすごく、えっと。感じたことないくらい、ものすごく。ぐちゃぐちゃな気持ちがつたわってきたから、わたしとおんなじなんだと思う。

でも、そのとーやくんは、今わたしのそばに、いない。それがすごく、ふあん。

わたし、大丈夫かな。うまく、できるかな。ぎゅっと、手をにぎりしめる。さっき別れたばっかりなのに、とーやくんが恋しい。

おとうさんが『くんれん』してくれなくなったから、さいきんはずっととーやくんと一緒だった。
ずっとずっと、行きたかった小学校も、とーやくんが隣にいてくれるって、そう思ってたのに。まさか、クラスが別れちゃうなんて、思ってもいなかった。

とーやくんが隣にいないだけで、すごくさむく感じちゃう。

しんぞうはドキドキなのに、身体はひやっとして、それで───、

「───ね、聞いてる?」
「…………えっ、」

おんなの子の声に、ハッとした。さっきまで、せんせーの声だけ聞こえていたのに、どうしてだか今はみんながお喋りをしていた。あわてておんなの子の方に顔を向ける。

お隣のせきの、おんなの子。金色の髪の毛の、キラキラしたおんなの子。キレイなのに、困ったように、顔を顰めていて……。

どうしよう、どうしよう。こういう時、どうすれば、いいんだっけ。わかんない。いつもとーやくんが、わたしの代わりに言ってくれてたから、なにを言わなきゃいけないのか、わかんない、わかんない。ぱく、ぱく、口を開けて、閉めて。そのくりかえし。どうしよう。どうしよう。

たすけて、とーやくん……!

思わずここにいないとーやくんにたすけを求めて、ぎゅっと目をつぶったら、ふぅ、と息の音がした。

ため息、ため息だ。おんなの子、呆れちゃった……。せっかくお話してくれたのに、おんなの子、呆れちゃった……。

さむいのが、つよくなった。

「あのね、さっき、先生が『隣の席の子とお話しましょう』って言って、それでみんな隣の席の子とお話してるのよ。だからあたし達もお話しましょう。まったく。ダメじゃない、ちゃんと先生のお話聞いておかないと」
「ぁ…う……」

知らなかった……。ぜんぜん、聞いてなかった……。ぼーっとしてたから、せんせーのお話、頭のなかにぜんぜん入ってない。

わたし、おんなの子の言うとおり、ダメな子だ。もしかしたら、話しかけてきてくれたおんなの子のことも、ちょっと無視しちゃっていたかも。すごく、すごく、もうしわけなかった。

なんとかして、「ごめんなさい」ってもごもご言って。そしたらおんなの子はうん、って笑ってくれた。

おんなの子はとってもやさしい子だ。

「それで、あなたのお名前は?」

おんなの子はにっこり笑って、ズイッとわたしの方に近づいた。
キラキラしたおめめのなかに、もじもじしてるわたしがうつった。おんなの子はおめめもキレイだった。

「……、っれな……」
「へぇ、れなって言うのね。あたし、せいか!よろしくね!」

キラキラのおめめをもっとかがやかせて、おんなの子、えっと……せーかちゃん、が、わたしの手をにぎって、ブンブンおおきく振った。おおきな握手。はじめての握手に、なんだか心がぽかぽかあったかくなっちゃう。つないだ手もあったかくて、さむいのが少しだけにげていく。

せーかちゃんは髪の毛もおめめもキレイな金色で、ちょっとまぶしいおんなの子だった。

ぽけっとせーかちゃんと手をブンブンし続けて。途中でハッと思いだす。

そうだ、わたし。学校でしたいことが、あったんだ。

ずっとずっと、『まえ』からずぅっと思っていたこと。学校に行ったら、ずっとしたかったこと。

それが今、自分の力で、かなえられること!

「あ、あのっ、あのねっ、せーかちゃん……!」
「?なぁに?」

ことばにするのは、すっごくすっごく恥ずかしくて、とってもとっても勇気がいることで。

それでも、おとうさんみたいに、顔から火が出ちゃいそうでも、言わなきゃ何も、はじまらないから……!

「わたしと、おともだちに、なってください……っ!」





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