白日 当たり前が、当たり前でなくなった日。 全開にした窓から見えた世界は、何一つ変わってなくて、強いて言うなら、名も知らない鳥が、やかましい位囀っていた。 一人ソファーに腰掛け、皺くちゃになってしまった一枚の紙を開く。 酷い話じゃないか。 走り書きされた一片の紙。 こんなことって、ある? 涙も出やしない。 時代はさ、確かに便利になった。 どんなに離れていたって、心は通じ合える。話だって出来る。残すこともできる。出来ないことなんて、ほぼ何もない。そう、ほぼ何もないはずなのに……。 角ばったあなたの字。 泣くに泣けない。 乱雑に並べられた数字や記号にアルファベット。 夢中になって、画面を見続けるあなたの横顔が、ふと目に浮かぶ。 呼吸をするように、二人はいつも一緒だった。 それはずっと、この先も変わらない未来図だったはずなのに。 「やばい。会社に財布を忘れてきた」 そう言って、あなたはヘルメット片手に、家を出て行った。 軽い気持ちで、ドジね。と言った言葉が、悔やまれる。 「すぐ戻るから」 そう言ってエンジンを掛けるあなたを、手を振り見送った。 これが最後になるなんて、誰が思う? 解約できないまま、放置されたあなたの携帯が鳴り出し、私は恐る恐るそれに出る。 つくづく私も間抜けだ。 これはゲームのパスワードなんかじゃなく……。 これはあなたからのラブレターだったんだ。 「俺ら、一緒に暮らすようになって、もう何年になる?」 そう聞かれ、そんなことも分からなくなるくらい、マンネリ化してしまったのかと。機嫌が悪くなった私を、どんな気持ちで見ていたんだろう。 カーテンが大きく揺れ、春の風が舞い込む。 テーブルの上で、振動する携帯電話。 ここにはね、あなたとした会話がね、たくさん残っているけど……。 二人が出会った日。初めてデートしたレストランの略称。予約時間。小さく書かれたハートマーク。あなたって人は……。 2020/06/08 (09:55) [back] ×
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