ヴォイジャー 強風が吹き荒れる中、詩音はひたすら前へと突き進む。 国家なんてくだらないもの。 手にしたシナリオが気に目を落としたまま、詩音は相手の出方を待つ。 自分が最も嫌う父親に従ってまでも、詩音には守りたいものがあった。 3Dホログラムが作り出す世界だった。 巨大な影を落とし、シップが空を渡って行き、詩音は顔を顰める。 これなら、誰も疑うことがないだろう。 護衛隊長が薄らと笑みを浮かべ話す。 製薬の発明は画期的だった。 「どうです? なかなか良いでしょ? このテーマパークなら、何が起きても不思議ではない。それが狙いです」 テーマパークと称した、実験施設だった。 やや遅れて鳥形戦闘機が低空飛行でやって来る。 「来たか」 詩音は身を屈め、怏々と茂る叢へ姿を隠す。 ある日、宇宙からの侵略者、ザターンによって、すべてが捻じ曲げられてしまった。 文明を発展させ過ぎた彼らは、自らの手で、星を滅ぼしてしまった。 そして新たに見出されたのがこの星、地球だった。 予測が付かぬ、襲来に誰もが口々にテロを囁いたが、そんな生ぬるいものではなかったのだ。 未確認物体の襲来で、街をいくつか失くした国家はようやく目覚め、多国籍軍が結成されたものの、時すでに遅く、南半球全般を侵略されてしまったのだった。 人々の自由は奪われ、ダンバーを振られ、ザターンの監視下に置かれた。 そんな中、唯一西林博士だけが、この異変に気が付いていた。 そしていち早くシェルターへと逃げ込み、ザターンの手から免れることが出来たのだ。 しかしそれは、一時のしのぎにすぎない。 どこまで敵うか分からない相手だが、この国、射や地球の存亡にかかわる事態である。投げ出すわけには行かない。西林博士は、ありとあらゆる情報をかき集め、そのすべてを詩音に託した。 探索機が地面すれすれに飛んでくる。 詩音は息をひそめ、それを待った。 詩音はレーダーには映らない。 草がなぎ倒され、詩音は探索機にしがみつく。 空母に着陸寸前で、詩音は手を放し、転げるように身を隠す。 知能指数がはるかに上の人類。 勝てる見込みなど計り知れない。 だが、詩音は歯を食いしばり、参謀室を目指す。 勘でしかなかった。 ここまで敵と遭遇しなかったのが、奇跡である。 参謀してあろう重い扉の前、詩音は呼吸を整える。 認証。 手を翳し、目を見開く。 ものすごい速さで、数字が回されていく。 詩音の額に汗が滲む。 異変に気が付いたのであろう。 扉がほんのわずか開かれ、兵士が飛び出してくる。 その隙を狙って、見事に中へ入ることが出来た詩音は、茫然とする。 そこで詩音が目にしたものは……。 「コンピューター?」 モノグラフが鈍い音を立て、姿を現す。 「ようこそ、我がザターンへ」 軽快な笑みで出迎えたのは、父、西林恭二だった。 「父さん?」 「詩音、幻覚に惑わされるな」 耳を劈く銃声に紛れて、父の声が流れ込む。 辛うじて攻撃から待逃れた詩音も応戦。 激しい攻防が続き、音が鳴りやむ。 敵の姿はなく、詩音の手によって破壊された機械が虚しく煙を上げていた。 姿形どころか、痕跡一つ残されていない。 忌々しく、壊れた窓から外を眺める。 そこには皮肉なくらい美しい景色が広がっていた。 2018/04/10 (00:27) [back] ×
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