返信 | ナノ

 時間に押し流されるような日々。
 それでも確実に前へ進んでいる。
 街は春めいて、身も心も軽くなった、というと大袈裟かな?
 そう、あの日も今日も何も変わってなんかいない。
 久しぶりに引っ張り出してきたコート。
 何気なくポケットに手を突っ込み、その感触にわたしは顔を顰める。
 あなたはこんな恋愛もの、見たくはなかったのよね。
 最初から無理があったのよね。
 ずっと気が付かないふりをしてきたけど、心が痛かった。
 春風吹いて、スカーフ揺れる。
 どうしてかな、ずっと忘れていたのに……。
 胸の奥の奥。
 厳重に鍵を掛けていたはずなのに……。
 あなたといた一コマ一コマが眩しいくらい鮮やかに蘇って行く。
 何度だってやり直せるつもりでいたのになぁ……。
 本当の気持ちは誰にも言えずに、悩んだ日々。ようやく出した答え。夜空に星一つ。涙も一粒。全部忘れてやるつもりだった。それが私のプライドだったから、後悔はしていないつもりだった。
 でも眠れない夜。
 思い出すのはあなたのことばかり。
 好きだったのになぁ。
 明日の今頃は、きっと全部忘れて、何もなかったようにいつもの私になって、普段通りの時間に流されていくから、今日だけはこの思いに浸って、気が済むまで泣かせて。
 泣くだけ泣いたら、あなたが好きだって言ってくれた笑顔取り戻すから……。
 ああ嫌になっちゃうな。酷い男だったのに、どうして忘れられないんだろう。



2018/03/26 (00:38)

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