※大学生設定
「お邪魔します」
「はーい、あがってあがってー!」
大学に入学して数ヶ月。
憧れだった1人暮らしの生活、それに高校卒業と同時に始めたアルバイトにもだいぶ慣れた。
「大学入って1人暮らし始めたんだよね?今度招待してよ」
いつだったかそう言った年下彼氏の誕生日の今日、部活終わりの彼が来るのを心待ちにしていたのだ。
「こーしー!」
「わっ!ちょっとなまえさん!頭わしゃわしゃしないで!」
「もー。照れてんの?ほんっとに孝支はかわいいなあー」
「ヤメロって!あのさなまえさん、わかってる?俺、男だよ?可愛いなんて言われても嬉しくないし」
「あはは!急にどーした?孝支が男の子なのは充分わかってるって!だから拗ねないの!ね?」
よしよし!と頭をなでると、彼のふわふわとした髪が私の手に触れる。
普段の笑顔も、バレーを頑張っている真剣な顔も、さっきの頭を撫でたときみたいに困っているような顔も、今みたいに分かりやすくムスッとしている顔も・・・。
私に素直な表情をたくさん見せてくれる孝支が本当にすきだ。
孝支は高校生、私は大学生なので1歳差のカップルなわけで。
そのたった1年離れていることを孝支はとても気にしているみたいだった。
そんなこと気にする必要なんてないのに。
「ちょ、こーし・・・?」
大人しく頭を撫でられていた孝支が自分の頭の上にのせられた私の手をギュッと掴んだかと思うとゆっくり頭からその手を下ろし、そのまま引っ張られた。
「・・・全然わかってねーべ」
突然の出来事に為す術もないまま私の身体は前方へと倒れていき、気が付けば孝支の腕の中にいた。
「なまえさんのほうがかわいいよ。」
そう囁く孝支は私が知っているかわいくて年下のいつもの彼とは少し違って。
自然と心拍数が上がっていく。
「あれ?なまえさん、照れてる?」
「てっ・・・!照れてない!」
「嘘だー、耳真っ赤だもん」
「うるさい!ほら!いいから座って座って!」
あははは!と楽しそうに笑う孝支の腕の中から逃れて彼の後ろに回りこみ、背中を押してテーブルの前に座らせる。
「ちょっとまっててね!」
キッチンに駆け込んで冷蔵庫を開き、グラスにアイスティーを注いで、昨日の夜に作っておいた小さめのホールケーキをとりだす。
その間もずっと顔が熱くて、冷蔵庫からの冷気が心地よく感じた。
(なんだこれ、全然ドキドキがおさまらない・・・!)
「なまえさん?まだー?」
「い、今行く!」
深く深く呼吸をしてからキッチンを出てテーブルにケーキと飲み物を並べると、彼は嬉しそうに「わあ!」と声を漏らした。
「孝支!誕生日おめでとう!」
ケーキに差していた数本のロウソクにつけた火を孝支が吹き消して。
切り分けたケーキを2人で食べながら「何か欲しいものない?」と聞けば、「なまえさんと誕生日をこうして過ごせてるだけで最高のプレゼントだべ!俺、幸せすぎてとけちゃいそう!」だなんてイタズラに、でもそれ以上に本当に嬉しそうに言うから。
もっともっと。
きみをとかしたい
「来年も孝支の誕生日を一緒にお祝いできたらいいな」と呟けば「その前になまえさんの誕生日があるから一緒にお祝いしなくちゃなー」って返してくる孝支に笑みがこぼれる。
来年の今日を迎えるまでの間に今よりももっといろいろな孝支を知っていきたいなあと思いながら、大好きの意味を込めて隣に座る彼に抱きつけば、今度は彼が耳を真っ赤にする番だった。