あなたの優しい指先が濡れた髪の毛に触れる。騒がしいドライヤーの音が二人の会話を邪魔するけれど、耳元で紡がれる優しい声がどうしても愛おしくてくすぐったさを感じた。

孝支は優しい、指先も声も何もかも。淡いオレンジ色のような優しさに包まれて時折苦しくなる。孝支の存在が大きすぎるせいでポロポロと溢れ出す私の想いを、いとも簡単に掬ってくれる孝支に、私は何を返せるのだろう。

ドライヤーの音が途絶え、終わったよ、と頭を撫でられる。その感触に思わず目を瞑り、ぼやけた幸せに浸っていると後ろから身体をふわりと包まれた。温かい重みを感じながら顔だけ振り返れば当然のようにキスが降ってくる。唇が離れてはにかむタイミングは二人同時で、ああ、駄目だ、好き、そんなことを思いながらまたキスが始まる。孝支の柔らかい唇の感触はすっかり私の唇に馴染んでしまった。


ぎゅうっときつく抱き締め合うだけで幸せになれるなんて、誰が気付いたのだろう。キスをして身体を重ねて、涙が零れてしまうほどの幸せを見つけたのは。歴史のことなんて全くわからないけれど、この幸せを教えてくれたのは、目の前の大好きな人だった。

「孝支、誕生日おめでとう」

大したプレゼントはあげられていないし手作りケーキだなんて可愛らしいことも出来なかった。私が出来ることは精一杯おめでとうを伝えることくらい、それなのに孝支はまた笑って、ありがとうと言うんだ。

「今日は孝支の誕生日だから、何でも言うこと聞くよ」
「へぇ?何でも?」

ニヤッとしたこの表情を誰が知っているだろうか。“優しい菅原くん”がこんな風に笑うなんて、二人だけの秘密だったらいいのに。ほんの少し恥ずかしくなって俯けば頬に触れる温かい手。こんな甘い空気を作られてしまったら、孝支にとことん堕ちるしかなくなる。

「なまえがほしい、ってありきたりかな?でもそれくらいしか思いつかないんだよね」
「…ん、」
「こっち向いて」

優しい手に促されて顔を上げるとまたキスをされた。それは少しだけ長くて、唇がじくじくと熱を持ち始める。

私の想いは孝支よりはるかに何倍も大きいはずだけれど、孝支だって、想像以上に私を好きでいてくれたらいいな、とぼんやり考えた。

「孝支、誕生日おめでとう」
「ありがと、ってこれ何回目だ」
「何回だって言うもん。孝支好き、大好き」
「……あー、もう!なまえ可愛い。ずるい。」

ぎゅうっときつく私の身体を抱き締める孝支は猫みたいに頬をすり寄せてきた。私よりもずっと可愛らしい行動を取るものだから、身体の奥底がきゅん、と高鳴り満たされていく。

怖いくらい孝支のことを好きになって、怖いくらい幸せになる。時折、苦しくなるんだ。けれど孝支がそんなもの関係ないとでも言うように全てを包み込んでくれるから、私はぼんやりした幸せに浸ることができる。

私の身体がベッドに倒され微笑み合えば、それは甘い時間の始まりだ。


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