「ホンッットごめん!」
「そんなに謝んなよ、俺だって部活あるし」
「謝るよそりゃあ!考支の誕生日だし…」
「来年もあるからさ」
「だって来年は………、…なんでもない」
「どうした?」
「なんでもない!」


 それなりに楽しいし不満もなかっただけに今のバイトは気に入っていたのに、初めてバイト先を恨んだ。休み希望を考支の誕生日である6月13日にしっかりと取ったハズだったのに、新しくきたシフト表を見ればしっかりわたしは出勤になっていたのであった。一応店長には抗議したものの「人が足りないから」との理由でわたしは何も言い返せなくなり、結局考支に謝ることになって…つまり、今に至る。考支は「来年もある」とは言うけれどわたしにはそんな保障どこにもないように思う。だって今は烏野高校の3年生で、つまりは上級生だから卒業生なわけで、来年は別々の大学かもしれない。そう思うと、来年があるのかどうかわたしにはまだ想像もつかなかったから、どうしても今年は今年でお祝いしたかった。


「その気持ちだけ受け取っておく、それでいいべ?」
「………」


 考支はそう言ってくれたけど、わたしはどうも納得いかない。







「えっ…スガにそんなこと言われたのか?」
「そうなの、…そんなに楽しみじゃないのかな」
「そんなことはないだろ、部活の時嬉しそうに話してたし」
「話してたの?」
「当日はお祝いしてくれるんだって、って」
「え〜〜余計にショックだよー…」


 なんとかしてよ東峰!エッ俺!?って漫才みたいなやり取りになってきたわたしと東峰は同じクラスで考支と同じバレー部だからという単純な理由で他の男子と比べたら東峰は仲の良い方だった。よく考支のことを話すわたしの良き理解者(かどうかはわからないけど)相談に乗ってもらっていることもある。現にわたしは今、東峰にこの状況を相談しているワケなのだけど。


「でも来年してくれればいいって言ったんだろ?ならそれでいいんじゃないの?」
「来年があるかわかんないじゃん」
「??」
「わたしたち今年受験生!卒業生!来年の今頃は別々の大学かもしれないんだよ?そうなったらって考えたらさあ」
「ああ…確かに……あ、じゃあ」
「?」
「バイト終わりスガの家に行けばいいじゃん」
「えー…」
「なに、その微妙な反応!」
「家って…少女漫画じゃないんだから…そんなマンガみたいな展開やだー…」
「えー…じゃあ、バイト終わりに一言だけでも電話すれば?それならスガだって喜んでくれるだろ」
「それもそうだね、ありがとう東峰」


 いつもロマンチストなことばっかり言う東峰からの提案でなかなかマシなもの(といったら失礼だけど大体東峰の案は少女漫画みたいな展開のものばかりで実行するのはとても恥ずかしい)なので、バイト終わりにでも考支に電話をかけてせめて「誕生日おめでとう」のひと言は言いたい。クラスも違うし友達も多い考支だから、わたしは一番には言えない、かもしれないけど(一応12時ピッタリにはラインするつもり)気持ちだけは人一倍あるし!よし、そうするぞ!







 きたる考支の誕生日の日、12時ピッタリにラインを送って、朝起きたら既読がつけられていて「ありがとう」と一緒にカワイイスタンプまで送られてきた。わたしもなんだかうれしくなってしまって、いつも憂鬱な朝も今日はなんだか早く学校に行って考支の顔が見たいと思った。でもいざ学校に行けば考支はバレー部とつるんでたりクラスの仲間とつるんでたりでなかなか二人になれない。クラスが違うわたしと考支は10分休みと休み時間にしか会うことができないのだけど、考支はその時間でさえ友達と居た。人脈が広い人だから仕方のないことだし、どうせわたしは夜に考支に電話をかけるんだから我慢しなきゃ、と思って考支がわたし以外の人と居る間は話じゃけないようにした。そうしたらあっという間に一日が終わってしまって、結局考支とは会ってもいないし声もかけなかった。帰りのHRが終わって時間があればいいのだけどわたしはバイトへ向かわなくてはならず、そのまま考支の姿を見ることもなく学校を後にしてバイトへ向かってしまったわけだけど、やっぱり電話で言うよりも、会って直接おめでとうを言いたかったな。



「お疲れ様です、お先に失礼します」
「お疲れ様ー!」


 バイトが終わって着替えて出たのは夜の10時を回ってからのことだった。まだこの時間なら考支は起きているだろうと歩きながら電話をかける。そうしたら3コール目ぐらいで考支から「もしもし?」と声が聞こえて来た。ああ、今日初めて聞いた考支の声。これだけでなんだかバイトの疲れが全て吹っ飛ぶよ。考支すごい、なんてことを考えてたら「どうかした?」って声が聞こえてきて、わたしは「バイト終わったんだけど、」と話を続けた。


「あのさ、お願い聞いてって言ったら聞いてくれる?」
「なんだよそれ、なに?言ってみ」
「……わたしが家につくまで電話切らないで」
「聞いてあげる」
「考支、お誕生日おめでとう」
「はは!そういや今日ちゃんと言われてないもんね、っつうか学校で会わなかったし」
「タイミング逃しちゃって、今日考支色んな人に捕まってたし」
「話しかけてくれてよかったのに」
「なんか邪魔しちゃ悪いかなって思ったの」
「そんなこと思わないよ、」
「そう?」
「ねえ」
「なに?」
「やっぱりさ、電話じゃ足りないかも」
「わたしもだよ」
「会いたい、今から、ダメ?」
「ダメじゃないよ、わたしも会いたい」
「じゃあさ、あそこの…烏野の近くに公園あるしょ、そこの公園で待ち合わせ、どう?」
「すぐに行くよ」
「支度するから一旦電話切っていい?」
「うん、大丈夫、わたし10分したら着くよ」
「わかった、合わせるようにして行くから」


 まさか考支から会いたいと言われるとは思わなかった。もう10時過ぎてるし会いたいなんて言ったら迷惑かなって思って電話にしたのに、嬉しすぎる。ちゃんと顔を見ておめでとうって言えることもそうだけど、考支にとって特別な日に、少しでもわたしと一緒に居てくれることももちろん。ああそうだ、せっかく会うんだからなんか…誕生日ケーキ、買ってこようかな。ああバカだなわたし、誕生日プレゼントせっかく持ってきたのに学校に置いてきちゃった、どうせ今日は会えないとか思ってたから。きっとわたしのほうが着くの早いだろうから、コンビニ行ってケーキ買ってこよう。


「考支!」
「ごめん、待たせた?」
「ううん、わたしもちょうど今来たところ」
「そう、…バイトお疲れ」
「考支も、部活お疲れ様でした、あと…」
「?」
「遅くなったけど、お誕生日おめでとう!あのね、コンビニでケーキ買ってきたよ」
「10時にケーキ食べて気にしないの?」
「多少カロリーとか気にするけど今日は気にしない!」
「ははっ、女の子って大変だな」
「大変だよー、毎日そういうの考えながらなんだから!」
「そっか」
「あのね、考支」
「ん?」
「わたし、今日考支の誕生日お祝いできて本当にうれしいんだ」
「俺もだよ」
「考支は来年もあるって言ったけどさ、」


 わたしには来年があるかわからないって思っちゃうんだ。そんな言葉を口にすれば考支はなにも言わずに黙ってわたしの話を聞いてくれた。今年は受験生で、お互いが別々の大学に進んで、そうしたら毎日会えなくなるかもしれなくて、遠距離になっちゃうって可能性もあるわけだから。そうなったらって考えるだけで寂しくなっちゃうんだよ。考支のことが好きだから余計にそう感じちゃうんだよ。…あ…、…せっかくの考支の誕生日にそんなこと言ってゴメンね、今の忘れて。
 ああ、なんて自分勝手なんだろうなわたしって。勝手に喋っておいて忘れてなんてさ。考支に心配かけたくなかったし、こんなこと言うつもりなんかじゃなかったのになあ。



「忘れてって言われて簡単に忘れられるわけないだろ」



 考支はそう言うなりわたしを抱きしめた。力強いんだけど全然痛くない。「その、寂しいとか思わせてたの…気付けなくてゴメン」って謝らないでいいよ、むしろわたしのほうこそゴメンだよ。「でも」考支は言葉を続ける。「遠距離になったとしても会えないワケじゃないべ?」考支はそう言うなりいつもの笑顔で笑ってみせた。「お前のこと寂しくさせたりなんかしないから」ああ、不思議だなぁ、なんだか考支にそんなこと言われると、本当にそんな気がしてきたなあ。


「だから来年もよろしくってことで」
「なんか1年が終わった時の挨拶みたいになってるよ」
「じゃあ祝ってって言えばいい?」
「そんなこと言わなくたってわたしはやるよ」
「期待してる」


 公園の時計がふと目に入ると、日付があと少しで変わろうとしていた。ああ、考支にとって特別なこの日にお祝いすることができて本当に良かった。来年もまたこうやって、考支の笑顔が見られるように、期待に応えられるように、とびっきりのプレゼント、用意しておかなきゃね。誕生日おめでとう考支、ずっと大好きだよ。



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