私の彼氏の菅原君は、みんなに「オカン」と呼ばれている。菅原君の性格や言動は、確かにお母さんそのもの。みんながそういうのも頷ける。
◇◇◇
いつも学校から出る時間より少し遅い7時過ぎ。今日は菅原君と一緒に帰る約束をしていた。菅原君は部活に入っているけど私は帰宅部。どうしても待ち時間が生じてしまうので図書室で待っていると言って一旦別れた。
菅原君がお迎えに来てくれるまでいれるかな、と思っていたら図書室は6時半に閉めるらしく、私は図書室から追い出された。
しょうがないから12月の寒い寒い夜に菅原君を待っていた。まだ12月のはじめだから、と言ってマフラーや手袋を持ってこなかったが失敗した。東北の冬をなめちゃいけないと改めて思い知らされた今日この頃。
「なまえ!」
「! 菅原君!」
手を息で温めていたら菅原君の声がした。校門に駆け寄ってきてくれている彼の後ろには澤村君と東峰君がいて、ニヤニヤしながら大声で菅原君をからかっている。菅原君は早く帰れよ、なんて言ってから私に向き合った。
「待った?」
「大丈夫だよ」
10分くらい前に菅原君から部活が終わったという旨のメールを受け取ったが私はその前から外にいたので迎えには来なくていいということと、校門で待っているとメールで送ったのだ。菅原君は手ェ真っ赤、鼻も。なんて言って私の手をギュッと握ってマフラーを貸してくれた。寒くないの、と聞けば大丈夫と笑顔で答えられる。
「12月に入ったばっかだからって油断しちゃダメだかんな」
「あ、バレた」
全く、と言って菅原君が笑った。そういうのがお母さんみたい。
「そういえば、夢で、なまえが出てきた」
「どんなだった?」
「エプロンしてた。あとちょっと大人っぽくなってた」
それってどういうこと。菅原君の想像が夢に出たってこと?違うよね、たまたまだよね。
「想像通りでびっくりした」
「……え、」
びっくりはこちらのセリフだ。まさかそんなことを想像されていたなんて。
「いつまでもなまえと一緒にいたいって思ってそんなことばっか考えてた」
「それが夢に出てきたんだ」
そういうことかな、と空を見上げながら呟いた。菅原kんにとっては何気ない会話だったかもしれないけど私には特別に感じられた。だって、自分の彼氏がそこまで考えてくれているなんて、うれしい他にない。
「そんなに考えてくれてたんだ」
「大抵はな」
「でもそのうち見れると思うよ?」
そうかも知れないけど。と菅原君は言った。けど、何だろう。
「今すぐ見たいし。それに、家にいるときはなまえがいないからちょっと寂しい」
「………とっても嬉しいけど、菅原君のお母さんに失礼だよ」
それとこれは別、とすっぱりと言われれば反論が出来ない。むぅ、と口を尖らせれば朗らかに笑う菅原君がこちらを向いた。
「いつでもなまえと一緒にいたいって思いが溢れたんだべ」
それならいつでも、菅原君の夢の中に出てきてあげられる。
瞼の裏側で逢いましょう
(いつでもあなたと笑っていられるから、)
(いつでも君と笑っていられるから、)