「スガさん!この休み、なまえさんとどっか行ったりするんすか?」

田中が突拍子もなくそう話しかけてきたのは数日前の部活終了後に片付けをしていたときだった。何で急にそんなことを?と聞けば、だってスガさんもうすぐ誕生日じゃないっスか!と返ってくる。

「エーッ!?そうなんですか!おめでとうございます!!」
「うおっ!日向!お前どっからわいてでてきた!」

そんなやり取りをする2人にありがとう、と声をかけたところで、影山が大地に「なまえさんって誰っスか?」と聞いている姿がみえた。

「ああ、みょうじな。スガの彼女だよ」

うおぉぉおおおお!かのじょ!かのじょ!と顔を赤くして騒ぐ日向にうるせェ!と怒鳴る影山。本当に元気なやつらだなあと関心して見ていると、大地が近づいてくる。

「んで、どうなんだ?」
「何が?」
「出かけたりする予定、あるのか?」
「んー。今のとこないなー」
「ハハッ、だろうな!みょうじってあんまそういうのこだわらなさそうだもんな」


あれから数日経った、6月13日金曜の夜。
クラスメイトや部員からたくさんのおめでとうをもらって、いつものように部活を終えて家に帰り、風呂上りに部屋のベッドの上に仰向けになっていた。その姿勢のまま手に持ったバレーボールで直上トスを繰り返しながらふと先日の会話を思い出していた。

(こだわらないって言うか・・・きょーみ、ないのかなあ)

俺の誕生日に限らず、彼女自身の誕生日や記念日、女の子が盛り上がりそうなイベント事などにあまりこだわりを見せないみょうじ。もちろんささやかなお祝いみたいなのはしているけれど、俺としてはもっと2人で出かけたりして同じ時間をたくさん過ごしたいと思うのだが、彼女はどうなんだろう。思い返せば告白したのも、デートの誘いも、いつだって俺からだ。学校内でもクラスが違うから毎日必ず顔を合わせるわけではないし、基本的にわざわざお互い会いに行くこともない。そういえば俺は彼女のことを名前で呼ぶけれど、彼女は未だに俺のことを「菅原くん」と呼んでいるなあ。そんなのこと考えていると枕元においていた携帯電話が鳴り出した。相手は―みょうじ なまえ。

「もしもし」
「菅原くん、今何してる?時間大丈夫?」
「おー、大丈夫!さっき風呂入ってきたとこ」
「そっか。ならよかった!遅くなっちゃったんだけど、お誕生日おめでとう」
「おー、ありがとうな!」
「うん!あの、次会うときにプレゼント渡すから」
「プレゼントなんていいのに!でも、ありがとう。楽しみにしてるな」
「あっでも!あまりたいしたものじゃないから期待はしないでね」
「何で?なまえから貰えるもんなら何だって嬉しいよ?」

俺の言葉に照れくさそうに「あの、えっと」と慌てる彼女の表情が簡単に想像できて、思わず声をあげて笑ってしまった。そこから何でもない話を少しして、ちょっとした沈黙が出来た。いつもならここで「そろそろ切ろうか」となるんだけれど、それもなんだか寂しくて無意識のうちに言葉を続けていた。

「なあ、なまえー」
「なに?」
「この日曜、どっか行くべ?」
「急にどうしたの?」
「いや、さ。何だかんだで俺、部活のことばっかりであんまなまえとどこかに遊びにいったりできてないなーって思って」

女の子は遊園地とか映画見てショッピングするのとか好きなんだろ?と聞けば、うーん・・・と考えるような声が聞こえてくる。

「確かに嫌いではないけど、別にいいよ。菅原くんは毎日朝練やって授業もでて、放課後にまた部活で身体動かしてるんだから。お休みの日はゆっくり休まなくちゃ。」
「そうやって、俺のためになまえにいろんなこと我慢させたくない」
「我慢なんてしてないよ?私は一生懸命バレーを頑張ってる菅原くんが好きだもん」
「でも」
「私は別に、菅原くんとどこかにお出かけしたいから付き合ってるわけじゃないよ」
「それはもちろん、俺だってそうだけど!でも俺はなまえともっと一緒にいたい。日曜はもう予定はいってる?それとも、俺と出かけるのいや?」
「違う!そうじゃなくて、は・・・恥ずかしい、から」
「・・・へ?」
「大好きな人と2人で出かけるなんて、緊張してどうしたらいいかわからない」

なまえのその声を聞いてこれまでの不安が一気に吹き飛んだ気がした。

「はあ・・・なんだ、そっか」
「菅原くん?」
「てっきり俺ばかりが好きなんじゃないかと思ってた・・・よかったあ」
「そ、そんなわけない!」
「うん、そうだよな。ごめん」
「ううん、私こそ。言葉が足りなかったよね。あのね、さっきも言った部活のことだけど。菅原くんのバレーやってる姿も好きだから応援したいって思うし、バレーを頑張るためにちゃんと休息をとってほしいって思う。だからそのことで我慢してるつもりもないの。」

一呼吸置いた彼女はまたすぐに「もちろん、」と続けた。

「一緒に居たいし、もっと恋人らしくしたいって思ったりもするけど・・・私、緊張しいですぐテンパっちゃうから。上手くしゃべれなくなったりして、時々自分で自分が何言ってるのかわからなくなっちゃうし。好きな人に、変なとこ見せたくないって思っちゃうとどうしても勇気がでなくて、いつも菅原くん任せにしちゃってた」

こうやって電話してるときも毎日ずーっとドキドキしっぱなしなの、と言うなまえからの不意打ちに胸がトクンと高鳴る。

「あー・・・。そんなこと言うのは反則だよなあ、ズルい」
「え?何が?」
「んーん。こっちの話!あのさ、なまえ。俺はなまえのことならどんなことでも知りたいって思うよ?」
「本当に?・・・私も、菅原くんのこともっともっと知りたい」
「だべ?よし、じゃあやっぱり日曜日は出かけようよ。」
「う、うん!」
「決まりな!細かいことはまたメールとかで決めるとしてさ、今日は俺の誕生日だからひとつだけワガママ言ってもいい?」
「もちろん!私にできることで菅原くんが喜んでくれるなら、」
「そろそろその“菅原くん”ってのやめない?」
「えっ・・・でも、」
「まーた恥ずかしいとかって言うのかー?」

イタズラ心が働いて、「俺、今日誕生日なのになあ」と大げさに残念がると、とても小さな声で「わかった」と返事が返ってきたが、その後喋らなくなってしまった。

「ホレ、呼んでみ?」
「え・・・いま?」
「おー、いますぐ!」
「・・・こ」

一文字目で躓いてしまった彼女に思わず笑みがこぼれる。

「こうし、くん」
「うん」
「孝支くん。好き」
「うん、俺もなまえのこと大好きだよ」

彼女は俺に興味がないんじゃなくて。俺だけが彼女のことを好きなんじゃなくて。俺のことを好きだと思ってくれているからこその態度だったんだ。恥かしがり屋ななまえらしくて可愛いじゃん、なんて思ったらまた幸せな笑いがこぼれた。


それが正しい愛され方
( なんだ、不安になることなんてなにもなかった )


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