「遊園地の券あんだけど行ねーか? せっかく三枚もあんだしよォ」

 ──というリーダーの発言により。
『スケット団一行は遊園地にやって来た』
「なに勝手にナレーターやっとんねん!」
 すかさずヒメコはスイッチにツッコんだ。
「一行、ってなんか水戸黄門みたいだな」
 マップを捲りながら呟く。
「さぁ、なに乗る?」
 ヒメコはすっと手を挙げた。
「せっかくやから全部乗りたい!」
 続いてスイッチも手を挙げる。
『お化け屋敷』
「却下。アンタとボッスンで行ってこい」
 ボッスンは一人マップを眺め続けている。
「ここは無難にジェットコースターにしねぇか?」
「それや!」
『結局ボッスンが一人で決めたな』
 話しあった結果、三人は入り口から一番近いジェットコースターに乗ることになった。
 そして、順番待ちの列に並び始めてからしばらく経った頃である。
『──一人余るな』
「え?」
「余る?」
 スイッチは掌を目線の高さまで挙げ、指を三本立てた。
『俺たちは三人。しかし』
 今度はピースの形を作る。
『このジェットコースター、否、ほとんどの乗り物が二人掛け』
 つまり、
『余りが出てしまう』

「……ほな、ジャンケンで余り決めへん?」
「えっ、俺ジャンケンめちゃくちゃ弱いんですけど!!」
 逆に捉えればスイッチとヒメコが余ることはないということだ。
『さーいしょーはグー!』
「じゃーんけーん……」
「ちょ、ちょっと待って──!」



「いやー、楽しかったなぁ。なぁ、」
 ボッスンて、と振り向いた。
「一人でも十分楽しかったよ」
 やはりへそを曲げている。
『写真買うか?』
「買わねーよ!!」
「ははっ! ボッスン泣いとるやんけ」
『wwwwwwww』
 ヒメコは腹部を抑えて笑った。
「うるせー! ヒメコ……ってかスイッチまでツボるんじゃねぇ!」
 地面にしゃがみこむボッスン。
「まぁでも余りを交代するとかなら俺だってガマンできたよ? 我慢するよ。でもさ」
 鼻をすする音が聞こえる。
「なんでいつも余りが俺なんだよぉ……」
 ボッスンの背中はさらに丸くなった。
『公平にジャンケンにしただろう』
「せやせや。公平にジャンケンにしたやろ」
「全然公平じゃなかっただろ!! 二人とも同じの出してたし!」
 もう帰る、と言いながらへそを曲げ、歩き始めたボッスンをスイッチが引き留める。
『わかった。次に乗るのをボッスンが決めてくれ』
「……観覧車」
 四人掛けの乗り物を選んだのは言うまでもない。
「ちょうど暗くなってきたし、ええんとちゃう?」
 チョイスはさておき、機嫌をとるようにボッスンをおだてた。
『混んでるし、列に並ぼう』
 そして、それから数十分経った頃である。



 霜月、という名に相応しいほど日が落ちてから冷え込んだ。
 ゴンドラの中は温かいかな、とか呑気なことを考えながら順番を待つ。
 その時だった。
『──温かい飲み物が飲みたい』
「せやな。こんな冷えるとは思ってなかったわ」
『だから買ってくる』
「えっ!? 順番もうすぐだぞ!」
 残りあと五組をきっていた。
『そこに自販機がある。すぐに戻ってくるから』
 スイッチは列から抜けて、振り向いた。
『もし戻って来れなくても、二人で乗ってくれ』
「え!?」
『せっかく並んだのにもったいないじゃないか』
 そう言い残し、スイッチは歩いて行った。
「……どうする?」
 スイッチとのやりとりで、もう既に順番は次になっていた。
「どないしよ」
 できればボッスンから諦めようと言って欲しかった。
「やっぱ──」
「二名様ですね! どうぞ!」
「……。やめへん?」
「おせーよ! もう乗っちゃったよどうすんの!」
 答える前にゴンドラに詰め込まれてしまった。
「それはこっちの台詞や! どないするん」
「もうどーにも出来ねーよ!」
 ゴンドラはどんどん地上から離れてゆく。
「少しの我慢だ」
 我慢、という言葉に傷ついた。
 アンタはアタシと嫌々乗っ取るんか。
「アタシ寝溜めとくから、アンタは窓割って飛び降りて死ね」
「何でそんなこと言うの!?」
 それまで微妙な空気が流れていたが、いつも通りに戻っていた。
 しかし。
「……」
 話題がない。
 でも、静かに一人で夜景を楽しむのもそれはそれで良い気がしてきた。
 それに虫相手に無理に話しかける必要も無い。
「すげーな」
 一人言か。
 寂しい奴やな。
「……ねえ、無視しないでくれる?」
「今の一人言やなかったんかい!!」
 再び半泣きになるボッスン。
「だってせっかく遊園地に来たのに俺ばっか一人で乗ることになるしアイス落とすしパーカーにシミできるし、やっと三人で乗れるヤツ選べたと思ったらスイッチは乗らないしヒメコに罵倒くらうしちょっとは俺の気持ちも考えてくれよぉ〜〜…」
「子供か!」
 相当をヘソを曲げている。
 仕方ない。
 その癖の強い髪の毛に触れて撫でてみる。
「子供か! 俺は子供か!」
「なんやせっかく慰めたろー思っとったのに相変わらず子供やなぁ」
「子供子供って連呼すんなよ!」
 ボッスンはヒメコの手を振り払った。
「なんやのー自分でも言うてたやないのーこの子はー」
 更に不機嫌にしてやろうと母親のように接した。
 そうしたらまた、言い争いが始まると思っていた。
 しかし、

「……俺だってもうすぐ十七だ」

 そう言って、その振り払ったヒメコの手を掴んだ。
 思っていたよりも骨ばっている手の感触に驚く。
「バカにすんなよ」
 このばくばくとうるさい心臓の音が伝わっていないかどうか不安だった。
 否、そんなことあるはず無いとわかっていても、そう思ってしまった。
 段々繋がれた手が熱くなってくる。
「……あれ、お前手熱くね?」
 思っていたことをそのまま言われて急に恥ずかしくなり、力一杯彼の手を振り払った。
 その手が鉄製のドアにぶつかり、ボッスンは丸くなっている。
「いってぇ……。ちょっとは手加減してくれよ!」
「うるさい! アンタが、その……変なこと言うからや!」
「えぇ!?」
 この虫! と付け加えようとして止めた。
 コイツは虫なんかじゃない。
 正真正銘、男だ。
 不覚にもそう思ってしまった。
「……アンタ、来週誕生日やな」
「文化祭だよ」
「それもあるけど」
 誕生日の話となると複雑な顔をする。
 そのことは知っていた。
 それでも、何となく聞いてみたかった。
「何が欲しい?」
 たまにはお礼がしたい。
 この、アタシを救ってくれたリーダーに。
「別に何もない」
 即答だった。
「……そうか」
 何も言えなかった。
「もうすぐ着くな」
「全然夜景見てへんやん」
「そうだな」
 今からでも見とくか。
 そう呟いて頬杖をつくボッスン。
 夜景よりも、その横顔を見つめていた。



『いやーお疲れ様。どうだった?』
 表情は変えないが、楽しんでいるのがわかる。
「長かった」
「疲れたわ」
 色々な意味で。
『そうか』
 そう言ってスイッチはペットボトルを二つ差し出した。
『奢りだ。好きな方飲んでくれ』
「おっ気が利くな」
「あんがとな」
 迷わず紅茶を選ぶ。
 その時、園内にオルゴールの曲が流れた。
『もう閉園か』
「帰るか」
 スケット団は三人とも仲は良いが、依頼以外で休日会うことは珍しい。
 楽しかった時間が終わってしまったような、そんな感じだった。
「また三人で来ようぜ」
 彼のその台詞が単純に嬉しかった。
「せやな」
 ヒメコは思わず笑みがこぼれた。

それは夢のような
どんなに望んでも、それには必ず終わりが来る





この話は色々なところで躓きました。
更に言えば本当はスイッチの話を書く予定でした。
しかし、その話もかなり躓き保留にして、昔「そういえばハズカシガールのオチの遊園地の話って二次創作で見たことないなぁ」と思ってネタとしてあたためていたものを書いてみることにしました。
結局こっちの方が先に完成してしまったという……。

12.8.21






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