そこは、真っ白な世界だった。
 地平線が見えない。
 何も無い世界。
 ──否、少し先に誰かが立っているのが見える。
 近づいてみると、その人は純白のウェデイングドレスを着ていた。
 何故だろうと腕を組むと、自分もタキシードを着ていることに気づく。
 つまり、この人は俺のお嫁さんってことか。
 一体誰なのだろう。
 ベールで顔が隠れていて見えない。
 ──知りたい。
 意を決し、ベールを捲る。
 するとそこには、
「ヤバス!」
 矢場沢さんの顔があった──

「……ユウスケいつまで寝てるの! ほらもうギリギリじゃない!」
 母の声でボッスンは目が覚めた。
 いつもなら台所から声を掛けているのだが、今日は部屋まで呼びに来ている。
 つまり、本当にギリギリなのだろう。
 時計を見るといつも家を出ている時間の10分前だった。
「朝ごはんはできてるからさっさ着替えてさっさと食べてさっさと行く!」
 今何回さっさとって言ったんだ。
 そう思いながら急いでボッスンは制服に腕を通した。



 最近変な夢を見る。
 真っ白な世界にタキシードを着た俺と、ウェデイングドレスを着た花嫁さんがいる。
 ここまではいつも同じだ。
 毎回違うのは、その相手。
 今まで出てきたのはロマン、八木ちゃん、デージーさん、そして矢場沢さん。
 最初はロマンだったためいつものロマンワールドだと思っていた。
 しかし、次に八木ちゃんが出てきたところでロマンの影響ではないことに気づき、その次のデージーさんで原因が違うことに気づく。
 今まで夢に出てきた4人に共通点は見えない。
 強いて言えば開明学園で出会った人たち、といったところだ。
「絶対チュウさんのせいだ」
 先日、チュウさんがレミお姉さんのご両親に挨拶をしに行った時、何故か生徒代表としてボッスンが繰り出された。
 それまで自分にはまだ関係無い、と思っていたことが急に身近に感じるようになったのだろう。
 しかし、この夢はあまりにも非現実的すぎる。
 夢を見た後は疲れるし、イミフメイなものばかりだ。
「だから夢って嫌いなんだ」
 自分の席に着いた瞬間、ボッスンはそう呟いた。
『ボッスンは本当に夢が嫌いだな』
「スイッチも嫌いだろ?」
 スイッチも非科学的なことは嫌いだ。
『否、全然。むしろ面白いくらいだ。』
 まぁものによるがな、と付け足す。
 マジか。
 スイッチなら分かってくれる気がしたのに。
『今日なんてボッスンがサルの集団に追いかけ回される夢見たぞ』
「えっ!? 俺スイッチの夢の中で何やってんの!」
『そしてそれを眺めている俺』
「うぉおい! そこは助けろよ!」
 夢の中でも惨めな俺。
『さらに笑いすぎて涙を流すヒメコ』
「だからそこは助けろよ!」
 何か彼に恨みでも買ったのだろうか。
 その日のSHRは少し泣きながら受けた。



 ──だから夢は嫌いなんだ。
 最近目覚める度にそう思う。
 矢場沢さんの後はキャプテン、コマちゃん、ミモリン、結木さん、モモカと続いた。
 毎日同じ夢を見ているからか、夢の中でも夢だと気付くようになった。
 そして、ここ数日間で変わったことが1つある。



 そこは、真っ白な世界だった。
 地平線が見えない。
 何も無い世界。
 ──否、少し先に誰かが立っている。
 今日こそは会えるだろうか。
 彼女に。
 そしていつもの通りにベールを捲る。
 するとそこには、
「……サーヤ」
「ボッスン」
 ──何故だろう。
「どうしたの? ぼーっとしちゃって」
 彼女なら、何かを知っているような気がした。
「……ヒメコは」
「え?」
 ゆっくりと息を吸う。
「ヒメコは、どこだ」
 そう言い終えると、心が軽くなったような気がした。
「ヒメコちゃん?」
 そう言いながら小首を傾げる。
「やだなぁボッスン。ほら、向こうにいるじゃない」
 サーヤが指した方向には、同じようにウェディングドレスを着たヒメコと──タキシードを着たキリの姿があった。
「……」
 言葉が何も出ない。
 ずっと。
 ずっとずっとずっと、探し求めていた彼女の隣には、
「キリ」
 他の人がいる。
「何だ」
 待てよ、忍者野郎。
「早よ行こ」
 ヒメコの傍にいていいのは、隣にいていいのは、
「ああ」
 俺だ。
 俺だけだ。
 そう言ってやりたいのに、言葉が喉につまる。
 2人が顔を見つめ合っているのを見たくないのに、彼女の笑顔に目が反らせない。
「ボッスン」
 サーヤが腕を絡ませてきた。
 伏し目がちに、力無くそう呟く。
 一瞬、ぐらりと意志が揺らいだ。
「……ごめん」
 それでもボッスンはサーヤの腕を振り払った。
 ただ彼女を求めてこの真っ白な世界を走る。
 まだ間に合う。
 まだ追いつける。
 しかし、彼女の姿は見当たらない。
「ヒメコ」
 もう諦めなければならないのだろうか。
 ボッスンの足は次第に遅くなっていき、そして止まった。
「……ボッスン」
 突然名前を呼ばれる。
 この声は、もしかして。
 否、絶対──
「動くな」
 そう呟いて、後ろから抱きしめられた。
 こちらからは細い腕しか見えない。
 それでも、相手が誰だか判るのには十分だった。
「──ヒメコ。俺動けないんだけど」
 不思議と笑みが溢れる。
「それでええ。動くなや」
 一体どんな顔をしているのだろうか。
 絡めている腕をほどいて、後ろを振り向く。
「動くなって、言ったやろ」
 頬を紅く染めていた。
「お前こそ勝手に1人で行くなよ」
 その頬にそっと手を添える。
「俺、ヒメコがいないと──」



「なぁ、ヒメコ」
「ん」
 一緒にソファーに並んで座っている彼女を見つめた。
「どっか勝手に1人で行ったりするんじゃねーぞ」
 ヒメコの口角が上がる。
「行くわけないやんか」
 行くとしたら購買くらいやと言った彼女にほっとし、目の前にあるお茶菓子に手をのばした。


夢の中まで君を求める





意味不明です。
すみません。
なんだかいつも微妙なタイミングでサーヤ出してますね。
でも彼女がいないとラブコメは始まらない。
あ、ボッスンは自覚はしてないです。
きっと自覚をするようになるのはもっと後だと思います。

12.7.12






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