一瞬だった。
 ぼんやりと他の事を思い浮かべた瞬間、皿が泡だらけの手からするりと抜けた。
 ガラスの割れる音が響く。
「あー…」
 このサイズは二枚しか無いのに。
 切り分けたケーキのように欠けた皿を見つめながらそう呟いた。
「大丈夫か」
 顔を覗かせている彼に笑顔をつくる。
「皿一枚割ってもーた」
 明日探しに行く、と付け加えたが、そういう意味ではないと否定された。
「手ぇ怪我してねぇか」
 あぁ、そういう意味か。
「大丈夫や。心配させてもうてすまんなぁ」
 ほら、と泡を洗い流した手を翳す。
 しかし真っ白な手に小さな赤い雫が浮かび上がっていた。
「ばか、血ぃ出てるぞ」
「こんなん怪我やない。舐めたら治る」
 指を口にくわえると、鉄臭い味が広がった。
「あ、こら」
 腕を掴まれる。
 彼の胸に抱きつく形になってしまった。
 ごめん、と言おうと顔を上げると、不意に口を塞がれた。
「……何、今の」
 沈黙が流れる。
「んー……消毒?」
「なんで疑問系になんねん」
 彼の顔を見ると、少しずつ紅く染まってゆくのがわかった。
「絆創膏持ってくる」
 そう言い残してキッチンから姿を消した。
「……バレバレや」
 照れたのだと思うと口元が緩んだ。


攻めるのでもなく、守るのでもなく





リクエストとして書いたつもりが、没。
ボッスン攻めってわからない…。
そして実は名前が一回も出てきてません。

12.11.10






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