* 「でな、そこのパン屋、胡桃パンがうまいんやで」 「へぇー……」 「ほんでな、クリームパンはアカンねん。なんかボソボソしとるんよ」 何故知らないパン屋の話を聞かなければならないのだろうか。 そんなことを思いながら廊下を歩いていると、ある二人の姿が見えた。 「お、椿じゃねーか」 隣には加藤がいたが、わざと椿の名前だけを出す。 「貴様、会長に対する話し方に気をつけろ」 相変わらずの忠誠心である。 「っせーな。いンだよ別に。行こうぜ二人とも」 そう言って、二人の手をとった時である。 「なぁキリ、あそこのパン屋覚えとる?」 ──キリ? なに馴れ馴れしく名前で呼んでんだよ。 「どこの」 「ほら、ウチらの中学の近くにあったパン屋」 そういえば中学近いんだったっけ。 「あぁ、あれか。たまに買ってたけど」 「あそこの胡桃パンめっちゃ美味ない?」 昔の話をするヒメコがあまりにも楽しそうで苛立つ。 「先に行こーぜスイッチ」 スイッチだけを呼んだが、ヒメコは気にしてない様子だった。 * ──楽しそうだったな。 校門を出た後一人言か否か、スイッチは静かにそう呟いていた。 「別に」 あのとき本当はスイッチではなくヒメコを呼んだつもりだった。 しかし、寂しがり屋のくせについて来なかった。 つまり、あの後は椿と三人で帰ったのか、あるいは── 「……」 考えるのが嫌になり、ベッドに飛び込んだ。 * そこは、真っ白な世界だった。 地平線が見えない。 何も無い世界。 ──否、少し先に誰かが立っているのが見える。 近づいてみると、キリとヒメコが向かい合っていた。 「キリ」 愛しそうに名前を呼ぶ。 「何だ」 「早よ行こ」 何処に、何で、どうしてそんなヤツと。 キリにかヒメコにか、あるいは二人になのか、腹が立つ。 「ああ」 手を差し出すと、彼女は自身のそれを重ねた。 「──」 何も言い出せなかった。 ただ拳を握り締める。 意識はそこで途絶えた。 * 気がつくとベッドに仰向けの状態になっていた。 時計を見ると、まだ午前三時を少し過ぎた頃だった。 電気を点けたまま寝てしまったからか、激しい疲労感に襲われる。 「……」 違う。 これは夢。 そう、ただの夢だ。 大事な仲間が嫌いなヤツに盗られてイライラしてるだけだ。 椿にスイッチを盗られるようなものだ。 「……って、スイッチに限ってそりゃあ無いか」 じゃあ、ヒメコは。 意外と鈍いところもあるし、もしかしたら、もしかすると── 「なんだよ」 イライラする。 枕を壁に向かって投げようとして止めた。 後でルミに蹴られるのがオチだ。 「……ヒメコのヤツ」 彼氏はいないんだろ? じゃあ、 「誰が好きなんだよ」 はっきりしろよ。 そう声に出そうとした瞬間、あることに気がつく。 ──はっきりしてないのは、自分の方ではないか。 俺は、誰が好きなんだ。 「……」 当然答えなど返ってこない。 「わかんね」 布団に身を沈めた。 * 「多分、気づかないフリしてた」 手を重ねる。 「何の話」 「自覚してたかってこと」 指を絡めると甘い熱が伝わってきた。 「ふぅん」 面白くなさそうに声を出す。 「ちょっ、そんなつまんない? この話」 「別に」 唇を重ねた。 「今が楽しいから、そんなことどうでもええ」 抱き締めてくる彼女に理性を奪われた。 愛しくて 心の底から君を求める 『馬の合う加藤とヒメコ』……良い感じの話が思いつかず、辿り着いたのがパンの話。 『自覚をするボッスン』……自覚してるのか微妙な感じになってしまったので未来に飛んだらスイッチ入らず。 本当に嬉しいコメントを頂いたのに、あまりリクエストに応えられませんでした……。 すみません……。 もっと文章力を身に付けなければ。 こんなのでよかったらお受け取りください! リクエストありがとうございました! 12.9.30 〇 |