今日、学校の近くでお祭りあるんやて。
「キャプテンが言うとった」
 普段より声のトーンが高いヒメコ。
「……へぇ」
 反対に、ボッスンは更に低い声で返す。
「せやから、その、……三人で行かへん?」
 やはりそういうことか。
「めんどくせー」
「えぇ〜〜。何で」
「だって学校の近くなんだろ? 一旦帰って着替えてまた集合、って……めんどくせーよ。制服のままならともかく」
 スイッチはどうなんだ? と話を振る。
『──俺は一度家に帰って着替えたい』
 スイッチなら分かってくれると信じてたのに。
 結局その日の相談時間を早めに終わらせ、各自着替えて現地集合ということになった。



「……ったく遅っせぇなァ」
 集合場所に一番早く来たのはボッスンだった。
 というより、家と学校の距離が一番近いのがボッスンだった。
 当然待たされる羽目になる。
『ボッスン』
「お、来たか」
 あとはヒメコだけだ。
 辺りを見回す。
「……ん?」
 ボッスン目に留まったのはヒメコではなく、館川高校──タチ高の生徒の姿だった。
 開明学園の近くにある高校である。
 正直あまり評判は良くなく、時々開明学園の生徒に手を出すので、過去に何度か相談されたこともある。
 つまり、ヒメコが過去にケンカを買った相手かもしれない。
「やべぇな」
 一旦自宅に戻っているので、きっとスティックは持って来ない。
『何が』
「あ、いや……」
 タチ高だ、と小声で呟いた。
『昔ヒメコが相手したヤツだ』
「まじか」
 となると鉢合わせたら相当まずいのではないのだろうか。
「ボッスン! スイッチ! 待たせてもうてすまんなぁ」
 背後からヒメコの声が聞こえる。
 集合時間から十分ほど遅れていた。
「遅ぇーよ」
 振り向くと、そこには初めて見るヒメコの浴衣姿があった。
 水色がベースになっていて、爽やかで可愛らしい雰囲気が彼女らしい。
「オカンに着せてもろたんよ」
 ヒメコは呑気にうちわを扇いでいたため危うく忘れかけていたが、現状は思っていたよりも深刻だった。
 ──唯一の武闘派、しかも一番恨まれている可能性の高い彼女自身が闘えない。
「おいスイッチ。どうする」
 ヒメコに聞こえないよう小声で話し掛けた。
『ふむ。警戒しておくよう本人に言うべきじゃないか』
「でもコイツ浮かれてる時に注意してもあんま聞かねーんだよな」
『……じゃあ、』
「何二人で話しとんの」
 きょとんとした顔でこちらを見ている。
「なんでもない」
『たこ焼きが食べたい』
「たこ焼きて。大阪の食べたらもう他のは食べられへんよー」
 かき氷食べよ、かき氷。
 そんなことより回りをちゃんと見ろよ。
 狙われてるかもしんねーんだぞ。
「えっ……」
 気がつくと、ヒメコの手を掴んでいた。
 驚いた顔でこちらを見ている。
「何やの」
「……いや、別に」
「アタシそこでかき氷買うてくるから」
 掴んでいた手を離す。
 その逆の手で触れると熱かった。



 その場に止まっていると邪魔になるので、少し道を外れた所で待っていた。
 しかし、十分待っても戻って来ない。
「……遅ぇな」
『そうだな』
「電話」
 何度掛けても繋がらない。
 嫌な予感がする。
「屋台の方行ってみっか」
 別れた所に行ってみると、そこにはもう列は無くなっていて、彼女もいなかった。
「……」
 あのときもこんな感じだった。
 一人でふらっといなくなってしまった。
 その後に、彼女は──
「スイッチ! 俺はこっち探してみるからそっちの方頼む」
 幸い、屋台の出ている道は一本しかない。
『了解』
 返事を聞く前に身体が動いていた。



 しまった、と気づいた時にはもう遅かった。
 二人の男に追われ、振り払おうと細い道に入ったのが失敗だった。
 行き止まりで追いつかれてしまった。
「お前、あの鬼姫だろ」
 この制服はタチ高か。
「誰やそれ」
「惚けてんじゃねーよ」
 昔やったヤツらしい。
 今喧嘩を売られたらまずい。
 なるべく相手を刺激させないよう口を閉じる。
「俺たち昔アンタにやられたことあんだけどよ」
 今なら楽勝じゃね?
 大柄の男が嘲笑う。
 スティックがあれば。
 せめて浴衣でなければ。
 この状況で男二人はキツい。
「あのときの復讐だ」
 髪を引っ張られる。
 ああ、もうダメだ。
 そう諦めかけた時だった。
「うっ」
 大量の水が男の頭上に降ってきた。
 ガコン、と乱雑にポリバケツが捨てられる。
「返してもらうぜ」
 掴まれた手が濡れていた。



『……じゃあ、ボッスンが側に居てやったらいい』
「何で?」
『そのうち分かる』

「──ちょお速いんやけど」
 彼女に言われて初めて気が付いた。
 足を止めて正面を向く。
「何された」
「何もされてへん。追われただけや」
 あいつらにバケツも投げつけてやればよかった。
「一人で勝手に行くんじゃねーよ」
 男たちへの苛立ちをヒメコにぶつける。
「すまん」
 八つ当たりをしてしまったことに後悔した。
「……スイッチに連絡すっか」
 繋いでいた手を離し、背を向ける。
 何故かうまくメールが打てない。
「今メール送ったから、さっきの所に戻ろう」
「ん」
 ヒメコより前を歩く。
 何かを誤魔化すように手をポケットに突っ込んだ。
「ボッスン!」
 しばらくして、遠くから彼女の声が聞こえた。
「ゆっくり歩いてくれへんとアタシ追いつけないんやけど!」
 息が上がっている。
 そんなに速く歩いていたのかと思ったが、よく見れば彼女は浴衣だった。
「ん」
 手を差し出す。
「なに?」
「手ぇ貸せ」
 ゆっくりと目の前に出された手を掴んだ。
「これならもうはぐれねーだろ」
 大きく腕を振っても、その手は繋がったままだった。
「せやな」
 行くぞ、と呟き二人は再び歩き始めたが、今度は横に並んでいた。


もっと素直になればいいのに





初めてリクエストをいただきました。
最初にボッスンが不良を見るところと、最後にスイッチがニヤニヤは話のテンポが悪くなってしまったので変えてしまいました。
すみません。
一応最後の文はスイッチ視点です!
期待に応えられてる気がしませんが……。
でも楽しく書かせていただきました!
素敵なリクエストありがとうございました!

12.9.29






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