手の甲に彼の掌がそっと覆い被さる。
 重なっている、というより触れている、と言った方が相応しい彼の手から伝わってくる熱。
 じわじわと手が熱くなる。
「──っ」
 恥ずかしくなって引っ込めようとした右手を彼は掴まえて逃がさなかった。
 それどころか二度と離ない、と言っているかのように指を絡ませる。
「ぼっ……すん」
「ん」
 彼の骨ばった手の感触が心地良い。
 彼の低い声が身体を痺れさせる。
「──」
 触れたい。
 もっと、もっと。
「──っ」
 ボッスンは驚いたように目を見開く。
 初めて、ヒメコからキスをした。
 ゆっくりと、甘く、優しく。
 唇に触れる。
「──もう知らねーからな」
 共に酸素を求めて一度離れた唇が、再び重なった。
 いつの間にかボッスンのものになっていた。
 キスをすると、唇ってこんなにも柔らかいものなのかと改めて思う。
 苦しくて胸を叩くと唇はやっと離れた。
「……あほ、辛かったんやけど」
 絡めていた指をほどいた。
 正確には力が抜けた。
「俺がそうさせたかったんだよ」
 そう言うと彼は肩で呼吸をするヒメコを抱きしめた。


それは甘くて苦くて、でも甘い





言い訳。
最初はただ手を繋いでただけでした。
私の好きな小説家はもちろん有川浩です。

12.9.14






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