パートナー決定

「あのね、真白ちゃん………心して聞いて欲しいの」

「は、はぁ……」

「その、謝っておくわ、でもこれも試練だと思って…」

「え、ええ?」

「ペア決め……言ってたわよね」

「ほむ」

「実はAクラス、作曲家コースが一人余っちゃったの!!」

「え、はぁ?」

「だから、ペアなしになっちゃうの…」

「はいぃいいいい!?」

「でも安心して!Sクラスも一人、いい感じに一人アイドルコースが余ってるのよ!」

「……」

「それでね、ペアがいないと卒業オーディションはきついから…ね、会うだけでも……」

月宮センセから衝撃的すぎることを聞かされて、何も言えなくなる私。彼は何を言っているのだろうか。ああ、いくらモブだからって気を抜いてはダメという教訓ですね。

あとから聞けば皆いちようにして、

「え、真白ってペアいなかったの!?」

だそうだ。くそう、妙に明るく良い子キャラでいたのがいけなかったのか。

「……ってなるんだけど、聴いてる?」

「はっ、はい!」

「じゃあ、それでいいわね」

「はい!………え?」

しまった。と思っても後の祭り。よくわからないまま彼はルンルン気分で私の肩を押してどこかへ向かう。

今日の昼休み。突然呼び出されたと思えば突然のこの話。気が付けばこんな流れ。

何してんだ私!!

「相手はちょっと気難しいんだけど…真白ちゃんには是非オーディションに受かってほしいわけ。相手も、落とすには惜しい人なのよ…!お願いっ!」

「つ、月宮センセがそこまで言うなら…」

頬を引きつらせても取り返しはつかないので、黙々と足をすすめる。ついたところは、職員室の日向センセのところだった。その相手というのは……。

「…っ!!!」

一瞬にして顔が歪むのがわかった。相手は、まさかの私が一番苦手とする、一ノ瀬トキヤなのだ。うそだろう。とつぶやきが漏れた。

耳聡い一ノ瀬が顔を上げてこちらを見て、え。と目を見張る。日向センセが立ち上がって手招きをした。月宮センセに押されて、前に進む。気が付けば目と鼻の先に一ノ瀬がいた。

「日向先生。パートナーってAクラスの彼女のことですか?」

「ああ、そうだ」

Aクラスの、という単語を妙に強調されて冷たい視線を向けられた。Sクラスから見下されたような発言をされたのは初めてではないが、いかんせん発言者が一ノ瀬だったこともあり、私もむっとしつつ、

「…………Aクラスの、作曲家コース。速水、真白です」

Aクラスの、を強調して挨拶を返してやった。彼は涼しい顔で言葉を返す。

「Sクラス、アイドルコースの一ノ瀬トキヤです。先に言っておきますが、やる気がないなら辞退してくださって結構ですので。私は一人ででもオーディションを受けますから」

聞けば聞くほど素敵なまもちゃんボイス……げふん、違う、上からなセリフだな。でもこっちの一ノ瀬の方がまだマシだ。己が出ているから。

「そこまで言うなら私も言わせてもらいますが、貴方こそ自分の無茶ぶりを当たり前のように通そうとしないでくださいね。出来ることをむちゃぶり風に通すことと、完全なむちゃぶりはまったくブツが違うんで」

「……言ってくれますね。そこまで言うのなら相当な実力をお持ちなんでしょうね?」

「そのままそっくりバットで打ち返して差し上げますわ」

火花が飛び散ってる気がした。日向センセが私の後ろの月宮センセに目をやる。

「喧嘩はダメー!ほら、トキヤちゃんも真白ちゃんも、落ち着きなさーい!」

ごつん、と強烈なチョップが私と一ノ瀬の頭に落ちてきて、私たちは同時に口を閉じた。あわせたのは失敗かしら、とのつぶやきを聞いて、そりゃそうだと心で頷く。

私はトキヤが好きではない。ソフトに言うと苦手、率直に言うと大嫌い。それは今までの流れでわかっているであろうが……。

上からな態度というか、リアルこういう人いたら仲悪いだろうなーと思うタイプの典型例。基準は私の中で、というものですがね。

「……一ノ瀬、速水。この話は保留ということにしたほうがいいのか……?」

「龍也!」

「どう見てもこいつら仲悪いだろ!」

「初対面でしょ!?トキヤちゃん緊張してるのよ!」

「なぜ私が、」

「それにトキヤちゃん、こういう人間だから初対面の人からは基本恐れられちゃうのよ!たぶん!」

「ぷ。すごい言われよう」

「うるさいですよ」

ぎっ、と睨まれて肩をすくめる。

……そう、なのかな。

ただ口が悪いだけなのかな。というか、自分の求める理想に追いつこうと必死なだけだとも言える。

「トキヤちゃんにはこう、友達ってもんが必要だと思うわもちろん真白ちゃんにも」

『どういうことですか!』

「あら、息ピッタリね」

ふわりと花のような笑みを向けてきた月宮センセは、私と一ノ瀬の手を取ると、軽くぽんと重ねた。きょとんとしてつながされた手を凝視してると、一ノ瀬が慌てたように振り払う。

「分かりました。彼女とペアというのならそれでいいです。日向さんが選んできた人ならそれなりの実力者ではあるのでしょう」

「は…………?」

「よっしゃ、パートナー成立だな!」

「やったわ!ありがとう真白ちゃん〜!」

飛ぶように抱きついてきた彼を避けるに避けられず自由にさせながら日向センセに目を向ける。

「お前ら、ほかのやつらとは出遅れてしまってるけど、頑張れよ。期待してるぞ」

「はい、わかりました」

「ぜ、善処します……あは」


前途多難のようです。



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トキヤ……おまえ。
なんで夢主あそこまでトキヤ否定するんだろ。
12.11.17






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