引き続き、イベント。

「春歌ー。どもども、お疲れ!」

「あっ、真白ちゃん」

「ほら、飲みかけで悪いけどお水飲むー?」

「ありがとうございますっ!」

こくこくと可愛らしく水を飲む様子を見つめていると、後ろから那月に抱きつかれた。

「はぁ〜、疲れますねぇ〜」

「ははー、那月お疲れ大変だね重いから離してー」

「え〜」

やだー。と笑いながらのしっとさらにのしかかってくる彼。ここは翔ちゃんを召喚して助けてもらいたいところだが、まぁ、那月も疲れてるようだし少しは許そうと思う。

流石に飲みかけペットボトルをあげるのは躊躇われるので、変わりに何故かポケットに都合よく入っていた飴をあげた。

「後で食べてね。もうすぐ出番でしょ」

「はいっ、ありがとう!」

「わぁい和むよ那月ナイススマイル」

親指を立てて、そろそろ離してと腕を叩く。渋々だが離してくれた那月にお礼を言って、七海からペットボトルを受け取った。

あと少しだし、ということで飲みきったペットボトルを捨てて再び作業に復帰する。場所はラストに近いレコーディングルームまで進んでいた。

「ここ、レコーディングルームではその名のとおり、レコーディングをするところだにゃ!」

「本格的な機械が置いてあって、申請すれば誰でも使えるので、みなさん練習はここを使っているんですよ〜」

「ブースとこっちとの会話は、マイクで普通にできるんだぜ!」

「なぁるほど〜」

ハヤトがあちこちを見回して、機械にかけよって覗いている。ふと、私の隣にいるスタッフの一人がカンペを出した。

ちらりと覗いてみると、何か歌ってと書いている。私と七海がぎょっとした表情になった。

「え、伴奏とか……歌うってなにをです!?」

私が小声で尋ねると、なんでもいいんじゃないかな?と笑う。ちょ、よく見ればさっきのスタッフ。むちゃぶりしてたの貴方でしたか。

「うーん。あ、ねぇ何か弾けたりする?ハヤトの曲」

「私は無理ッス」

即答で首を横に振る。すると七海がおずおずと片手を上げた。

「私、七色のコンパスなら……好きなので伴奏できます……あ、でも私がでしゃばっても、」

「おっけ!君行ってくれる?」

「ふえぇ!?」

サラサラとカンペに何かを付け足して、また上げる。カンペに気づいたハヤトが一瞬だけ目を丸くして、すぐに手をパチンと叩いた。

「ボク、ここで何か歌ってみたいにゃ〜」

「えっ、歌うんですかぁ〜?」

「うーん、誰か伴奏してくれる子、出てきてほしいにゃー!」

「あっ、あそこに作曲家コースの生徒が!」

すごく無茶ぶりです。テレビがこれでいいのか、と若干呆れながらも、私は七海の背をおした。翔ちゃんが七海の手を引いて中央まで連れて行く。面白いくらいにテンパっている彼女に、私はガッツポーズを向ける。

「が ん ば れ」

口パクでそう伝えると、やっと決心したのかキリリとした表情になった。いけると思った私は、ホッとして肩の力を抜く。

「それじゃあ、彼女が伴奏をしてくれるみたいだから、ちょっとだけ歌っちゃおうかにゃ」

ブースじゃないからマイクはない。伴奏もプロじゃなくて七海のもの。それでも彼は完璧に歌い上げた。リズムを確認して、テンポを七海のピアノに合わせて多少のミスは見なかったことにして。

悔しいけど、流石だと思った。

ハヤトは嫌いだけど、こういう気遣いは嫌いじゃない。ハヤトの中のトキヤが顔を出したみたいで…。実力はあるんだ。それをことごとく封じられてるだけで。

あーあ、可哀想。

曲が終わって、七海が皆からの賞賛を受けている。ハヤトの拍手をもらい、照れながらも嬉しそうな七海。私と目が合って、彼女はにこりとした。こっちも笑顔を返し、しばらくして戻ってきた七海を抱きとめる。

かなり緊張したようで、ガクガク震える七海を支えるのはちょっと大変でした。


こうして長いようで短かった撮影は終わった。生放送なのに七海を筆頭に翔ちゃんも那月も頑張った方だと思う。

七海は、生でハヤトの歌を聴けたことがそうとう嬉しかったらしく、今でもニコニコと頬を緩ませている。このニコニコ顔がデフォルトに見えるから助かってるね、七海。それ私がやったらただの変態だから。

「や、お疲れ様」

「あ、ハヤトさん。どうもです」

「春歌ちゃん、すっごいピアノ上手だね!伴奏も覚えてくれてるみたいで、すっごい嬉しいにゃ」

「わ、私なんてまだまだです…。でも、ありがとうございます」

礼儀正しく頭を下げた七海に、ハヤトのお褒めの声がどんどんと降りかかる。そろそろキャパオーバーだろうな、というところで、的は私にチェンジする。

「君も、荷物運びありがとう。ごめんね、重いもの持たせちゃって」

「いえいえ、大丈夫っす…です、よ。ハヤトさんの歌聴けてまぁ得した気分でしたなぁ」

「そ、そうかにゃ?」

「さすが、人気絶頂アイドルですね」

当たり障りのないことを述べた。ここで嫌悪感をむき出しにしてもなんの意味もない。それならまだ当たり障りのないことを言っておいたほうがいい。

「これからもお仕事、頑張ってください」

「ありがとにゃ。それじゃああっちの二人のところに行ってくるね。今日は助かったよ!」

ハヤトが去ったあと、かわって学園長がやってきた。

「二人ともー。どうでしたカー?」

「学園長。非常にいい勉強になりました」

「とてもいい経験になりました!!」

二人して頭を下げると、学園長は嬉しそうに頷いた。

「今日の経験を活かして、これからも頑張ってくださーい」

『はいっ』

フッと格好よく笑み、颯爽と飛んでいった学園長を見送って、私たちは顔を見合わせた。くすり、と笑い出す。

「よかったね、今日は」

「ええ。とってもとってもすごかったです!」

「ははっ、春歌可愛いなぁ〜」

「そ、そんなことはっ。真白ちゃんの方が!」

「あっはっはっはー。さ、実はこれから授業もあるんだよ。教室上がろうか」

「はいっ!」

七海の背を押して私たちは走り出した。

あれ、青春くさい。



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青春って、なんだろうね…。
そういや昨日ポッキーの日だ。
12.11.12






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