イベント当日

「君たちが今日サポートしてくれる子達だよね?お名前は?」

「なっ、七海春歌ですっ!」

「速水です。……速水、真白ですよろしくオネガイします」

ついにやって来てしまったこの日。私と七海は一足先に来て準備にいそしんでいた。準備もひと段落して、さてゆっくりしようか、というところに彼、HAYATOの登場。カタカナ表記が楽なので以後ハヤトと呼ぶ。

一瞬にして疲れが吹き飛んだらしい七海は、頬を上気させて挨拶をしていた。歪な自己紹介になってしまった理由は、苗字だけですまそうと思っていたのだが、名前は?というようにハヤトが覗き込んできたため慌てて付け足したからといった感じだ。

「春歌ちゃんに真白ちゃんだね。よろしくにゃ!」

さりげなく握手のため手を伸ばしてくるハヤト。ここで嫌悪感丸出しにしては失礼なので軽く握手をする。七海はとても嬉しそうだった。

嬉しそうな七海のため、私はハヤトが苦手むしろ嫌いという事実を隠さなければいけなさそうだ。これも可愛らしい七海のためと思えば苦じゃない。

「春歌、ちと手洗い」

「あ、いってらっしゃいです」

「んー。十分くらいしたら戻る」

ひらひらと手を振って席を立つ。ハヤトと存分に話すがいいと笑いかけ、とりあえず歩き出した。向かうは森のベンチ。セシルがいるかもしれないという淡い期待のもと覗きに行ってみれば案の定、朝っぱらだというのにゴロゴロとしている。

「はろーセシル!会いたかったよ」

声をかけてベンチに座れば、反応したセシルがぴょんと隣に飛び乗ってくる。

「可愛いやつめ。ぐりぐりー」

軽く頭を撫でてから、セシルへの本音トークに変えた。

「なぁセシルー。私やっぱりハヤトは嫌いだ。ヘラヘラしてて、でもきちんと笑えてなくて」

画面越しじゃ全くわからなかった。なんで七海はあの変化に気づけたんだ、乙ゲー独特のチート発動か、なんて疑ってたけど……たしかに見れば分かる。

ハヤトイコールトキヤ、ということを知っていればなおさら。たしかに心から笑ってる瞬間はハヤトの時にだってある。けれどかすかな違和感を感じるときもあった。

さっきなんか彼、七海にバレないかという色が若干見えた。

「はは、セシルに言ってもわかんないか。いいよ、私の傍にいてくれれば。ごめんね、言葉もわからないのに愚痴聞いてもらっちゃって」

「……にゃあ」

「ごめん、そんな顔させたかったわけじゃないの。んじゃ、私はそろそろ行くね。春歌によろしく」

ぽん、とひと撫でしてから立ち上がった。にゃあ、と鳴くセシルを残して、私は元来た道をゆっくりと歩き出す。途中で、早く登校してきた音也とすれ違い、軽い挨拶を交わした。

「たっだいまー。おや、みなさんお揃いで」

「おせーぞ真白!おはよっ」

きゃー翔ちゃんにおはようって言われた!すごい嬉しいです。にやけそうな頬を根性で真顔キープして手を振った。私、翔ちゃんにならミーハーになれる気がした。

「さて、皆揃ったところではじめるにゃ!」

「おっしゃ、お前ら頑張るぞ!」

『おー!!!』




「……というわけだにゃ!みんな、頑張ってるにゃあ」

「はぅわ〜……素敵ですHAYATO様……」

「は、春歌…仕事だってこと忘れないで〜」

紹介が始まって、ハヤトスマイルを見た瞬間にふにゃりと破顔した春歌。ミーハーだったとしても仕事はしっかりする子だと知ってるからとくにツッコミはしなかったけど、さすがにとろけすぎだろ。これ。

「いい?春歌が道具セット、私が運ぶ……おけー?」

「はい!」

「うむ、良い返事だ。……なんてね」



ずしっと重い荷物を運ぶのはなかなか骨が折れる。それでもこんなものを七海に持たせるくらいなら自分がやったほうがまだマシでしょ、ということを想像しながら根性でモノを運ぶ。

「そいやっさぁあああ!」

荷物を床に置くと、前を歩いていた私より重い荷物を歩いていたスタッフから飲み物を渡された。

「あ、ありがとうございます…」

「いやぁ、ごめんね。女の子なのにこんな重いもの持たせて」

「いえー。お気になさらず」

喉を通る水がとても美味しかった。しばらくしたらカメラを引き連れたハヤトらが来るので、それまでは待機してようか、と言われてコクリと頷く。ペットボトルをぺっこんぺっこんと押しながら首を回す。

「ハヤト……さんていつもあんな感じなんですか?」

「ん?……ああ、にゃ〜ってやつかい」

「それです。もしやあれが素だなんてことは……」

「素だよ」

あっさりと告げられた事実。やはりストーリーはどこも変わっていないらしい。変化があるとすればオリジナルストーリー、つまり日常が発生してるくらいだろうか。あと、ルートが確定していないからいろんなルートのイベントが発生する。

「すごいなぁ、あの人は」

「そうだね。僕もハヤトはすごいと思う。結構撮影に同行してるんだけど、何言ってもむちゃぶりきても嫌な顔一つしないの。尊敬するよ」

「……」

「君は確か、作曲家コースだったね」

「? は、はい」

「素敵なうたを生み出してくれよな。未来の作曲家」

「…ははっ、お任せを」

遠くからハヤトのはしゃぐ声が聞こえた。頑張れトキヤ。とらしくないことを考えて、まだ水の残るペットボトルを七海に渡すべく椅子から降りた。



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詳しいことを突っ込んじゃ負けですよ(笑)
12.11.08






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